東京五輪のメイン会場となる新国立競技場建設を巡って迷走が続いている。総工費が膨らんだことへの批判が相次ぎ、17日に安倍晋三首相は「計画を白紙に戻す」と、建設計画見直しを正式に表明した。五輪招致を決めた猪瀬直樹・前都知事はこの事態をどう見ているのか。猪瀬氏が語る。
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新国立競技場を巡る議論で何よりも検証されるべきは総工費の「不可解な推移」だ。2012年のデザイン決定時に1300億円だった整備費は、翌年にJSC(日本スポーツ振興センター)が試算し直すと3000億円に増えた。
2014年5月にJSCは計画規模を2割縮小して1625億円としたが、同年末に施工予定のゼネコンが試算すると資材・人件費高騰を理由にまた3000億円に膨れあがった。資材高騰は3割程度なのに、なぜ整備費がほぼ倍に増えて「もとの試算と同じ額」になるのか。
最終的に今年6月、ゼネコンとJSCが2500億円で合意したが、その経緯も内訳も不透明極まりない。
ザハ・ハディド氏の案が良いか悪いかの議論ばかりが喧しいが、最大の問題は「3000億円ありき」であるかのような試算にある。
私は2013年11月に都議会の所信表明で新国立競技場について、都民の便益となる周辺施設の整備については都で負担する考えがあり、その場合は「設計内容について専門機関による技術的な精査を受け、透明性を高めることが必要」と述べた。この専門機関が本体工事の透明性を高める役割も果たすはずだった。周辺整備のチェックという「のぞき窓」を通じて、東京都が本体工事も監視する仕組みだ。
ところが私が都知事を辞任した後、専門機関の設置は立ち消えとなった。結果、中身が見えないまま計画は進み、今では誰が責任者なのかさえわからない。『昭和16年夏の敗戦』で描いた、誰も責任を取らない日本的な意思決定そのものだ。