「株をまったくやったことのない主婦が『隣の奥さんがNTT株で儲けたそうなんですけど、私も儲けさせてください』と証券会社の窓口に殺到していました」
当時、165万株のNTT株に群がった個人投資家の約3割は株式投資の初心者だったといわれる。
「とにかくNTT株を買えば儲かるという伝説をみんなが信じ込み、大勢のビギナーが買いに走った。NTTの上場は国家的事業であり、売り出す証券会社も煽りに煽った。官民一体となって神輿を担いだわけです」(株式評論家の植木靖男氏)
しかし、そんな“祭り”はいつまでも続かなかった。1987年10月には米国発のブラックマンデーによって世界同時暴落に見舞われ、NTT株も急落。最高値から半年後の悲劇に、「300万円台で高値掴みをして、泣く泣く200万円台で損切りした人も続出した。『まだ上がるはず』と信じて売るに売れず、塩漬けになった人もたくさんいる」(前出・証券マン)という。
そうして多くの日本人が株の魅力と恐怖を実感した。日刊株式経済新聞の冨田康夫・編集長が「NTT株で株式投資を始めたという個人投資家は多く、それによる株ブームが1989年末を天井としたバブル相場につながった」と指摘するように、NTT株は単なる「株」というより、日本の「一般投資家」を誕生させるメルクマールになったことは間違いない。
※週刊ポスト2015年8月14日号