明治以降、「わいせつ物である」としてタブー視されてきた江戸時代の性風俗画・春画がついに現代に甦る──。9月19日から東京・目白台の永青文庫で開催される春画展には、一昨年9万人が訪れた大英博物館の春画展で展示された作品など、約120点が公開予定だ。
見つめ合い、手を取り、そっと引き寄せる男女の愛の静かな始まりを紹介するコーナーのほか、直接紙や絹に描かれた肉筆画、一流絵師たちの版画の傑作などが集う。また、初めて一般に公開される細川家所蔵の秘宝や、縦9cm、横13cm弱の小さな「豆判」なども大きな目玉となる。
春画が長い日本の歴史の中で人々とともにあったことを知ってもらいたい──そのような趣旨で公開される春画展。実行委員のひとりである国際日本文化研究センター(日文研)特任助教の石上阿希氏が話す。
「現代の日本では『わいせつ物』として扱われている春画ですが、江戸時代は『笑い絵』と呼ぶのが一般的でした。顔と同じような大きさで誇張されて描かれることもある男女の性器は笑いを誘います。
各地に性にまつわる祭りがたくさん残っているように、元来、日本には性の力を信仰し、またそれを笑う文化があるのです。春画もその芸術性はもちろん、ユーモアという観点から見てみると皆さんの認識や感覚も変わるのかなと思います」
春画は長い間、「存在しないもの」とされ、大学や美術館は所蔵を隠してきたが、そのタブーを打ち破ったのが、日文研だ。日文研は日本文化の国際的な研究を目的とし、各大学が共同で利用できる機関として1987年に創設。創立早々から、他の研究機関が目を向けないテーマとして春画に着目した。
「日文研は国の交付金で運営されおり、『税金の無駄遣いだ』と外部から横槍が入る可能性が高いので、1990年からひっそり収集を始めたのです」(早川聞多〈はやかわ・もんた〉・日文研名誉教授)
当時はまだ春画の価値が軽視されていたため、葛飾北斎や喜多川歌麿の作品であっても格安で購入することができた。2003年、所蔵のコレクションを初めてネット上で公開すると、春画に造詣の深い外国人とのネットワークも構築され、収集はさらに進む。
現在、図版がセットで揃う春本は世界に1200点あるといわれる。日文研はその3分の1を所蔵しており、9月17日には日文研所蔵の春画を厳選した写真集『ShungArt』(小学館刊)も発売予定だ。失われた江戸の芸術品である春画の収集、研究はさらに進んでいくだろう。
※週刊ポスト2015年8月21・28日号