もう一つ、強く印象に残った映像がある。翌8月7日、やはりNHKスペシャルで放映された『憎しみはこうして激化した ~戦争とプロパガンダ~』。
サイパン島でアメリカ軍に追い詰められた日本人女性が、高い崖から海へと、赤ん坊を放り投げる。その後続くように、自分も身投げする。画面が切り替わると、海面にはうつぶせになった赤ん坊が黒い固まりのようになって浮かんでいる。
「バンザイクリフ」から女性が飛び降りるそのシーンは、実はこれまで何度か見たことがあった。
しかし、その前に母親が自分の赤ん坊を投げるシーンが存在していたことを、初めて知った。水面に赤ん坊が浮かぶ映像も、初めて見た。映像から受ける衝撃が一段と大きくなった。
焼けただれた皮膚、自決、遺体といった映像は、戦争のありのままを伝える「不都合な記録」であり、できるだけ人目に触れないよう編集されたり隠されたりしてきたのだろう。しかし、この8月に放送されたNスペの映像は、はっきりと語っていた。
「皮膚感覚に訴える要素をとってしまったら、戦争のリアルは伝わらない」と。目をそむけたくなるような現実は、しかし実際に起こったことだ、と。
原爆直後の御幸橋の写真に映っていたセーラー服の少女は、生き残って高齢になっていた。
「私だけ残ったのは、伝えるためですかね。だから生かされているんですかね、分かりません」
女性の言葉が耳に残る。戦争を伝える作業はまだまだ達成されていない。この8月に見たいくつかの映像が、そう語っていた。