たとえば、言葉や物の意味が不明瞭になる意味性認知症と診断されて3年目の70代の男性。長年連れ添った妻を「うーん、兄弟かな?」と答えるほどの認知症だったが、1か月でMMSE(30点満点)が5点も改善し妻を認識できるようになった。また、MMSEが7点アップした70代のアルツハイマー型認知症の男性は、認知症を患ってから囲碁六段の腕前が初段まで落ちていたが、服用1か月で五段まで回復した。

 このプラズマローゲンは、アルツハイマー型に次いで多く、男性のほうがかかりやすいとされる「レビー小体型認知症」にも有効なことがわかってきた。この認知症は、特有の幻視(虫や人の幻が見える)や、自律神経障害で苦しむ人が多いが、それらの症状が80%の患者で消失したという。

「プラズマローゲンが効く理由の一つとして、この物質が脳内の神経炎症を防ぎ、認知症の発症に深く関係しているアミロイドβというたんぱく質の蓄積を防ぐこと、さらに、加齢とともに年々減っていく脳の神経細胞を新生することが考えられます。これらの結果からプラズマローゲンが認知症のみならず、多くの脳機能障害を改善することが期待できます」(藤野氏)

 藤野研究チームはこれまでにプラズマローゲンの基礎医学・臨床医学の論文をいくつも海外に報告してきた。国内でもその効果を確信した専門医が続々と臨床試験に参加し、認知症治療に新たな光が差している。この9月に一般向けにメカニズムを解説した本『認知症はもう不治の病ではない!』も出版する藤野氏がこう語る。

「認知症になって苦しむのは、本人以上に家族の方々です。だからMMSEの結果よりも、日々のコミュニケーション能力や、社会性の回復のほうが重要なのです。プラズマローゲンは患者さんとご家族の未来に大きな貢献をするでしょう」

※SAPIO2015年9月号

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