決勝戦、仙台育英が小笠原投手に4連打を浴びせて3点を奪うと、タオルをくるくる回す独特の応援スタイルが一塁側仙台育英アルプスから一塁側内野席、バックネット裏へと広がっていく。さらに6回、三塁打でついに仙台育英が同点に追いつくと、三塁側の東海大相模アルプス以外、三塁側内野席、さらに外野席までタオルが回っているのが見えた。
「いつも辛いです」
小笠原投手の声が私の耳朶に蘇り、見ていて辛かった。
双眼鏡でマウンドの様子を伺うと、いつもの表情の無い顔がそこにいた。だが内心は「違和感がありました。投げづらかった」という。また、ビデオで見た5年前の興南との決勝戦を思い出していたという。あの試合も興南を応援する赤で球場は一色になっていた。
「なんでいつも東海大相模はアウェーなんだろう」
小笠原投手は、「誰もいないバックスクリーンを見て」、心を静めたという。
だが9回、自らのバットでホームランを打ちダイヤモンドを回っているとき、二塁を回ったところで両手の拳を固め、笑顔になっていた。
試合後に報道陣の前に現れた小笠原投手に、私が「この試合は楽しめましたか」と質問すると、「そうですね」と微笑んだ。
「試合前に疲れは感じなかったのですが、いまどっと疲れが来ています」
--どこにですか?
「精神的に」
小笠原投手の渾身の、恐らく唯一のジョークに報道陣はどっと湧いた。が、今ふり返ると、あれは冗談に隠した彼の本心だったのではないかと思っている。