本来、リベラルアーツは教科書的な知識だけを問う学問ではない。歴史や地理を扱うにしても、それが現代とどうつながっているか、自分たちにとってどんな意味があるのかが問われる。
もし私が教養課程を教える教授だったら、授業でこんな課題を出すだろう。
■中南米はスペインやポルトガルに征服されて長らく植民地支配を受けたが、今も多くのスペイン・ポルトガル企業が幅を利かせているのはなぜか? しばしば中国や韓国で批判される日本企業とどう違うのか?
■ジョージア(旧グルジア)やチェチェン共和国があるコーカサス地方はなぜ政治的に安定しないのか? その歴史や地政学的な意味からどう説明できるのか?
■世界中で人気がある村上春樹が、20世紀後半の日本で登場してきた背景には何があるのか? やはり海外で読まれている太宰治や三島由紀夫との違いは何か?
■アメリカ人歌手テイラー・スウィフトが、ツイッターで一言つぶやいただけで、アップル・ミュージックの戦略を引っくり返すことになったのはなぜなのか?
そういった人文系の知識と現代の事象をつなぐような問いの答えを探っていくのも、広い意味でのリベラルアーツではないだろうか。むしろ日本人に欠けているのはリベラルアーツであり、それを軽視するのは大きな間違いだと思う。
※週刊ポスト2015年9月4日号