歌手デビューののち俳優業を始め、時代劇では凛々しい二枚目を演じることが多かった西郷輝彦だが、最近ではどこか朴訥とした人情派の顔を見せている。なぜ、異なる顔を見せるようになったのか。映画史・時代劇研究家の春日太一氏の週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』からお届けする。
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西郷輝彦は1980年代から1990年代にかけて『大岡越前』などのテレビ時代劇でナンバー2的な役を演じる一方、テレビ東京の『あばれ八州御用旅』(1990年)では白頭巾・二刀流で悪を成敗するヒーローを演じた。
「脇役に関しては『独眼竜政宗』以外は自分でやりたくてやった役はあまりないですね。頼まれたから出る、という感じでしたが、やっているうちに愛着が湧いてくるんですよ。それで『よし、じゃあそれなりに作っちゃおう』と少しずつ変えていくと役が面白くなっていきます。自分が楽しくなるように、キャラクターを変えていくんです。それでも、『脇役』と思ってやったことはないです。結果的にそうなればいいことですから。
『あばれ八州』の白頭巾と二刀流は、自分でやりたくて提案しました。おそらく、もうこれからそんなに時代劇はやれないんじゃないかという予感があったんですよ。あの頃、すでにだいぶ減っていましたから、いつまでも続かないんじゃないかと思っていました。それならば、やれるうちにやりたい時代劇をやっておこうという。あれは僕の子供の頃のヒーロー像です。
ただ、二刀流での立ち回りは踊りがちゃんとできていないと、バラバラなものになってしまいます。そこは東映剣会(※東映京都撮影所の殺陣の技能集団)の殺陣師の方が一緒になってやってくれましたね。そういう関係で、今でも剣会の特別会員なのは、役者では僕一人だけです」