「進路希望は地元の国立大学の文学部…」という夢は叶わなくなるかもしれない。文部科学省が打ち出した「国立大学文系学部は廃止」の提案で、にわかに起きた“国立文系は使えない”論争。それってホントのところはどうなの?
就活の場では、いまだ人数が少ないリケジョ(理系女子)の奪い合いがあるほど、理系人気が高いといわれている。千葉商科大学国際教養学部専任講師で大学生の就職事情に詳しい、常見陽平さんが言う。
「国立文系が評価される点はもともとの基礎学力が高く真面目なところです。とはいえ、社会ではチームで働くことなどが求められます。その点、理系では実験や課題が多く、学生はよく勉強させられている。勉強のカリキュラムの中身というより、勉強する過程で社会性を身につけています。
たとえば、実習はチームで協力して働かないといけないし、ルールを守らなければいけない。体力も必要です。そういうところが企業から期待されているのは事実です。また、国立大についていえば、多くは地方にあるので、社会慣れしていません。コミュニケーション能力は都市部の学生に比べて不器用です。
最近では、それを解消すべく企業へのインターンシップ(就業体験を積むために一定期間企業に従事すること)強化の動きはありますが、受け入れ人数には限りがあります」
しかし、文系廃止の動きに、海外からは反対の声が強くあがっている。「日本の文化や歴史をどこで学べばいいのか」「大事なのは技術だけではない」と否定的で、「日本は間違った方向に行こうとしている」との声もある。
そもそも海外には文系、理系の区別がほとんどない。米国の大学は入学して1年後に専攻を決める。重視されるのは学部よりも何を専攻したか、どの大学を卒業したかだ。
実は日本にもかつてはその区分がなかった。明治政府が帝国大学を設置した際に作られた制度が今まだ残っているというだけなのだ。それゆえ、国内からも、文系廃止に慎重になるべきだという声はある。
前出・常見さんは、最近のニュースを例に、こんな指摘をする。
「“文系は使えない”という言葉のひとり歩きはよくありません。文系といってもいろいろあり、社会学、経済学、商学などは社会とのつながりがある学問だし、文学だって人間の生き方や倫理観といったものを問われるので、存在意義はあります。
ただ今回の問題は、文系の学問自体がダメなのではなく、教育現場の現状や学び方に問題があるということだと思います。その結果、文系は“企業であまり活用できないんじゃないか”と懸念されている。
でも、社会的には教養ブームがきているし、一般教養は求められています。自国の歴史や文化を語れないとグローバルビジネスでは信頼されません。
それに、理系が多くいるであろう東芝が起こした不正会計の不祥事や、専門職であるグラフィックデザイナーの佐野研二郎さんの報道などを見ると、いくら理系だろうが専門職だろうが、社会人として教養は絶対に必要だと感じます。そのことを忘れてはいけません」
※女性セブン2015年9月24日号