「主役でデビューして、『ふれあい』もオリコンで十週くらい一位になり、スタートダッシュが凄いんですよね。でも、『一等賞でずっといられるわけがない』という感覚が心の片隅にはありました。自分の能力的には最大限を尽くしているはずなんですが、どうしても完璧に演じることなんてできないですから。やりながら『違うな』と思い続けていました。
そういう葛藤もありましたが、もともと悩んだり深刻に考えたりするタイプではないので、『いずれよくなるかな』と割と呑気でした。そういうのも上手く作用したんでしょう。何より、現場が楽しかった。
俺がNGを出すと『シュンがNGを何回出すか賭けよう』とか、歌を出せば『シュンは芝居より歌はまだマシだな』とかハッキリ言うスタッフたちでしたが、撮影が終わるとスタッフルームで集まって飲みながら『おい、シュンをスターにしようぜ』とか言ってくれたりするんです。凄く嬉しかった。自分の足りない能力を彼らに助けられました。
一つのチームというかファミリーでしたね。照明部の重いバッテリーを二つ持って撮影現場まで行かされたこともありました。その時のみんなとは今でも忘年会をやっていますよ。
『俺は凄いな』って素直に思えたことはないですね。むしろ『一発屋で終わるかもしれない』という意識はありました。ですから、芸能界で役者として生きていく上での自分なりのやり方は早いうちから考えました。
バッと売れると『これをやってくれ』『あれをやってくれ』という話がたくさん来ます。だけど、仕事の掛けもちはせずに一本ずつ出ることにしました。この先がどうなるかなんて、ノーバディノウズ。誰にも分かりません。ですから、自分がやれることを精一杯にやるしかない」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2015年9月18日号