親の心子知らずというが、同じ立場になってみないと、本当の親のありがたみはわからないものなのかもしれない。39才のOLは子供のころ、必死に育ててくれていた母親を傷つけてしまった。その時の体験を振り返る。
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私が6才の頃、母が離婚しました。父は酒癖が悪く、よく暴力をふるっていたので、いなくなって、ホッとしたのを覚えています。
1DKの狭い家で、母と2つ下の弟の家族3人、仲よく暮らしていました。ところが私が中学1年生になった頃、母は昼の仕事に加えて、夜、スナックでも働き始めたのです。内心、私は嫌でした。母は夕ご飯を作ってから出かけるので不便はなかったのですが、寂しかったのです。それに、朝、酒やたばこのにおいをさせて帰ってくる母を見ていると、乱暴だった父を思い出してしまうのも嫌でした。
そんなある日、「あなたのお母さん、水商売をしてるんだってね。いやらしい」とクラスメートに言われました。恥ずかしさと悔しさで、その日の夜、母の仕事をしている様子を見ようと、スナックに行きました。
外で隠れていると店のドアが開き、母が男性と出てきました。そして抱き合うのを見てしまったのです。私は驚いて、走って帰りました。クラスメートの言うように、母はいやらしい仕事をしていたんだと、悲しみと怒りを感じました。
翌朝、母にあいさつもせずに学校に行こうとすると、「朝ご飯くらい、食べて行きなさい」と母が私の肩を触りました。私は思わずその手を払いのけ、「触らないで、汚らわしい!」と怒鳴って、家を飛び出しました。学校から帰ると、母と抱き合っていた男性がいました。
「お母さんは、きみたちが大学に行けるよう、飲めないお酒まで飲んで、一生懸命に働いているんだ」
私の言葉が母を傷つけたのだとわかりましたが、見知らぬ男性に言われても、素直に謝る気にはなりません。ふてくされていると、母が「スナックを辞めて、ほかの仕事を探す。この人とも、もう会わないから」と言いました。この男性と母はつきあっていたのです。
仕事で誰とでも抱き合うのかと思っていたのは勘違いで、その男性も父と違い、実直な人でした。その後、母はスナックを辞め、男性は私の父になりました。今は、ここまで育ててくれた母を誇らしく思い、感謝しています。
※女性セブン2015年11月5日