中国国営の新華社の報道(2014年6月28日付)によれば、首脳会談の折衝のために訪台した中国国務院台湾事務弁公室の張志軍氏は、訪台3日目にわざわざ佛光山寺を参拝し、星雲大師と会談をもったという。張氏は今回の中台首脳会談を実現させたキーパーソンのひとりである。
張氏は「中国と台湾の人々が家族の情と知恵をもって問題を解決できるよう願をかけた」と語り、以前、北京でも星雲大師と会談したことを明かしている。また、台湾メディア・聯合報の取材に、星雲大師は、「今回の張主任の来訪で最も重要な意義は、『親戚訪問』にある。両岸は本来一つの家族だった。本来ならばもっと多く往来すべきだ」と語っている。
中国では宗教は禁止され、法輪功やチベット仏教への凄まじい弾圧は誰もが知るところだが、台湾の僧侶と中国の外交官という組み合わせには違和感を覚えざるをえない。
馬総統の心酔ぶりも台湾メディアが伝えている。聯合報(2015年2月1日付)によると、支持率低迷や景気問題などの難題を抱え、〈心の旅に出た〉馬総統は、最初に佛光山を訪れ、師に教えを請うたという。星雲大師は「習・馬会談の成功を願っている」と述べ、馬総統は「大師からたくさんのことを教えていただいた」と語っている。
宗教家が国家外交に影響を与えているという点で、病気を治す不可思議な力で信仰を集め、ロシア皇帝夫妻の側近となったラスプーチンすら想起させる。
中台首脳会談前日の11月6日、星雲大師は首脳会談の実施を最大級に絶賛し、「中国と台湾間の平和への貢献が評価され、ノーベル平和賞が馬英九さんに授与されるよう願っている」との声明を発表している。馬氏も面映ゆいだろう。
※週刊ポスト2015年11月27日・12月4日号