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【書評】有名評論家への辛めながら心のこもった追悼が印象的

【書評】『レクイエムの名手 菊地成孔追悼文集』菊地成孔著/亜紀書房/1800円+税

【評者】坪内祐三(評論家)

 山下洋輔や坂田明らを始めとしてジャズミュージシャンには名文家が多い。菊地成孔もその一人だ。ただし山下氏や坂田氏の名文が、その音楽と同じく、破調であるのに対し、菊地氏は、破調ももちろん、オーソドックスな名文家でもある。その「オーソドックスな名文」が冴え渡るのは追悼というジャンルであり、そのことを本書『レクイエムの名手』が証明している(あえて「名手」と名乗るところが菊地さんらしい)。

 五十本以上の追悼が収められているが、ジャズ関係者(その中には植木等、谷啓、桜井センリと言ったクレイジー・キャッツのメンバーも含まれる)、肉親、格闘家(カール・ゴッチ、エリオ・グレイシー、三沢光晴)さらには立川談志、団鬼六、加藤和彦、今野雄二といった人びとだ。

 感銘(あえてこのような凡庸な言葉を使いたい)を受けたのは「追悼 忌野清志郎」だが、個人的に一番印象に残ったのは「ウガンダ・トラ死す」だ。そうか菊地成孔はウガンダ・トラのバックバンドにいたのか(私はウガンダ・トラがドラムだったビジー・フォーのステージを学生時代に高田馬場駅前にあったトリス・パブ「ニューファンタジア」で見ている)。

 印象と言えば、中山康樹へのかなり辛口の、しかし心のこもった追悼も(ロックオヤジである私が中山康樹のロック評は楽しめてもジャズ評は楽しめないわけがわかった──中山康樹もロックオヤジだったのだ)。

 もっとも多く追悼されているのはフリーライター・エディターで二〇一二年一月三十一日に急逝した川勝正幸の四本だ。その一本目は、「友人であり、日本一のポップ中毒患者である川勝正幸さんが亡くなりました。午後いちで報を受け、誤報だと信じて事実確認をしていたのですが」と書き出されるが川勝氏は亡くなるまでの八年間、菊地の行なったすべてのイベントやライブだけでなく、著作やブログや媒体露出をおさえていたという。

※週刊ポスト2015年12月25日号

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