ビジネス

急成長する「移動スーパー」 全国の買い物難民の救世主に

東京の地場スーパー「丸正」は一昨年から提携

「近くのスーパーまで10km離れていて今は代わりに娘が行ってくれるけど、やっぱり自分で買い物したい」(徳島の81歳の女性)──生活必需品を買うのが困難な状況の「買い物難民」は、全国に約700万人いるといわれる。これは近くに店がない農村・山間部のような過疎地だけの問題ではない。

「歩くのが遅くて大通りを渡れず、100m先のスーパーに行けなくなった」

 東京の中心部に住む92歳の女性は、足腰が弱ったのをきっかけに買い物に出掛けられなくなった。

 徳島県に本部を置く移動スーパー「とくし丸」は、2012年にわずか2台で誕生した。増え続ける買い物難民の救世主として業績を伸ばし、今や全国27都府県で約100台が稼働する。これまでの移動スーパーとはいったい何が違うのか?

「トイレットペーパーそろそろ切れるんじゃない?」と販売員が声をかけると、「そうそう、あと1ロールだった」と常連のおばあちゃんがトイレットペーパーを買っていく。

 客と親密に会話するとくし丸の販売員(ドライバー)は販売パートナーと呼ばれ、個人事業主として本部と契約している。彼らは提携先である地元のスーパーから商品を調達し、軽トラックに積んで売りに行く。単に決まった場所で待つのではなく、民家の軒先まで訪ねて1日で50か所ほどを回る。週2回、決まった曜日、時間にやってくる御用聞きのような存在で、販売員は客の備蓄状況や食べ物の好みまでを把握しているのだ。

 ある販売員は「好きな商品でもいつも食べていたら飽きるだろう」と思い、休日もスーパーに出向き自腹で買い物をしてリサーチ。常連客に提案する商品を熱心に研究する。その甲斐あって「食べたい物は、私よりあなたのほうが知っているわ」と笑顔で喜ばれているという。

 移動スーパーの多くは採算が取れず、事業から撤退したり自治体の補助金で成り立っているケースが多い。しかし、とくし丸はすべての商品をスーパーの店頭価格より10円高く売ることできちんと利益を確保し、残った商品はスーパーが引き取るシステムだ。

 本部から車を購入する必要はあるが、販売員は売り上げの17%が取り分になり、月30万~40万円の収入になる。

 一方、提携先である地元スーパーのメリットも大きい。商品を代行して販売してもらえるからだ。本部に契約金と月3万円のロイヤルティを支払うだけで、月150万~200万円の売り上げ増が期待できる。

 さらに加速する少子高齢化。とくし丸も来年末には1000台態勢を目指すという。移動スーパーは、あなたの町でも救世主になるかもしれない。

撮影■渡辺利博

※週刊ポスト2016年1月29日号

関連キーワード

トピックス

結婚生活に終わりを告げた羽生結弦(SNSより)
【全文公開】羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんが地元ローカル番組に生出演 “結婚していた3か間”については口を閉ざすも、再出演は快諾
女性セブン
「二時間だけのバカンス」のMV監督は椎名のパートナー
「ヒカルちゃん、ずりぃよ」宇多田ヒカルと椎名林檎がテレビ初共演 同期デビューでプライベートでも深いつきあいの歌姫2人の交友録
女性セブン
NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン