まず故国にいるかのように、生活できる。バ国の公務員が逆植民地の役場で働いているから、住民サービスや納税もスムース。逆植民地開設に際しての初期投資はそんなに必要ないが、バ国が資金を負担する。日本は過疎地にも、電気ガス水道や通信など、インフラが整っているからだ。
そして何より人材が育つ。逆植民地はコミュニティなので、単純労働者ではなしに、医師や教員や技師や公務員など、多様な職種の人びとや家族がやって来る。日本の技術やノウハウを身につけ、日本の学校で学び、日本の企業で働くこともできるだろう。
受け入れ側の自治体はどうか。大勢の人びとがバ国からやって来るので地域が活性化し、地価も上昇。新たなビジネスも起こせるだろう。就労ビザを手に入れ、「逆植民地」から近隣の都市や工業地帯に働きに出てもよい。豊富な労働力を目当てに、「逆植民地」に工場を新設する企業も現れるに違いない。
有能な人材は逆植民地を離れて、日本全国どこの事業所にも就業できるようにしよう。こうして独り立ちした人びとは、逆植民地の住民には数えないこととするので、その分の人数を代わりにバ国から新しく迎えることができる。技術や知識を身につけた人びとは故国に戻って、バ国の発展に大いに貢献できる。
近年の紛争は、不合理な現状が改められない、不公正な感覚から生じている。恵まれたものとそうでないものは、資源や自然環境や歴史など、初期条件の違いに起因しているだけだ。「逆植民地」計画はその現状に風穴を空けることができる。先進国と第三世界が協力する、画期的なモデルケースとなるに違いない。
【PROFILE】1948年、神奈川県生まれ。社会学者。東京工業大学名誉教授。『あぶない一神教』『ほんとうの法華経』など著書多数。1月25日に『日本逆植民地計画』を発売。
※SAPIO2016年2月号