前川さんは、新潟に自分の鯉専用の20~30トンの水槽をいくつか借りている。
「真夏の鯉は、泥色の野池に入っていて見られないから行かないんです。でも秋になると…もう、体に鯉のリズムが刻まれているんですね。気になって気になって、10月から4月まで、また通い出す。この繰り返しですね」
そんな錦鯉の“美のツボ”はどこか。写真を見れば見るほど、わからない。前川さんに聞いてみた。
「この鯉を親にして交配したら、こんな鯉ができるんじゃないかと夢を見て手作りするんですけど、小さいうちはきれいでも、80cm、90cmと大きく育つにつれてアラが目立つんです。だからこそ、大きくて、くっきりと色・柄が出て、型つきがいいのが育ったときの喜びといったらない」
錦鯉の魅力を紹介する専門誌、月刊『鱗光』の編集者・田代聖子さんはこう言う。
「食べられないし、いずれ死ぬ鯉に大きなお金が動くことが理解できないと言うと、愛鯉家は『命が限られているからこそ、一瞬の美しさがたまらない』と言うんです。鯉は、大小を同じ水槽で飼ってもけんかをしない。赤、黄、黒、白など色とりどりの鯉が群れて泳いでいるのを見るとなんとも癒されるという人もいます」
その魅力をひと言では言い表せないところが、道楽の道楽たるゆえんなのだろうか。ちなみに錦鯉は「どんなに思い通りに仕上がっても、死んだからお墓をつくろうという気にならない。かわいいという感情とはすごく離れたところにいる」と前川さん。
…おじさんの愛がますますわからなくなった。
(取材・文/野原広子)
※女性セブン2016年2月18日