• TOP
  • 国際情報
  • 米大統領欺き北方四島をソ連に投げ与えた伝説的スパイの手法

国際情報

2016.02.17 07:00  SAPIO

米大統領欺き北方四島をソ連に投げ与えた伝説的スパイの手法

アルジャー・ヒス Reuters/AFLO

 日本の戦後史はスパイによって作られた歴史でもあった──終戦から70年以上を経て、貴重な歴史資料が次々に「秘密解除」となっている。そこから衝撃の事実が浮かび上がってきた。戦後史家・有馬哲夫氏が新たに公開された機密文書から戦後秘史を読み解く『SAPIO』の連載から、今回は北方領土をソ連(ロシア)に売り渡した男を綴る。

 * * *
 去年の5月19日、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、「北方領土は第二次世界大戦の結果、戦勝国ソ連の領土となった」と発言した。もちろん、これは純然たるプロパガンダだ。ソ連は、先の戦争のあとに、一方的に北方領土(南樺太、北方四島を含む千島列島)を不法占拠したが、それができたのは、ハリー・S・トルーマン米大統領が傍観したからだ。

 なぜ米国がそうしたのか。大きな要因は米国務省内のソ連のスパイの一人アルジャー・ヒスの工作が功を奏したことにある。簡単にいうなら、ヒスが前代のフランクリン・ルーズヴェルト大統領を欺いて、北方四島(アメリカ側の呼称は南千島)をソ連に投げ与えさせたのだ。

 以下では、そもそもヒスとはどんなスパイだったのか、北方四島を巡る米ソ間の密約においてどのような役割を果たしたのかを明らかにしよう。

 1950年に米国で吹き荒れたマッカーシズム(*注)のなかで国務省の高官ヒスはソ連のスパイとしてやり玉に挙げられた。彼は「非米活動調査委員会」に喚問され、そこで共産主義のスパイだったことを否定したことに対する偽証の罪で懲役5年の刑を受けたが、実際にスパイだったかどうかは疑問視されていた。

【*注:米国で起きた反共産主義運動。共産主義者とみなされた者に対し攻撃・追放が行われた】

 ところが、1990年代にソ連側の機密文書などに基づきKGBなどの研究が進められた結果、実際にヒスは1930年代にソ連側にリクルートされたスパイだったことが分かった。いまでは機密文書の公開によってヒスをはじめとして多数のソ連のスパイが米政府官僚として働いていたことが立証されつつある。

 米メリーランド州ボルチモアで生まれたヒスはハーヴァード大学法科大学院出身の弁護士だった。やがてヒスは、共産思想に傾倒しソビエト連邦軍(赤軍)参謀第四部のボリス・バザロフからスパイにリクルートされる。1933年、ソ連に流すための米政府の情報を得るため、それまで高給を得ていた弁護士の職を離れる。いくつかの公社勤務を経たのち、さらなる情報を得ようと1936年に国務省に入った。

 ヒスは国務省内で順調に出世し、1944年には国務省特殊政治問題局長になり、翌年の2月に開催されたヤルタ会議の準備を担当した。米国はよりにもよってソ連のスパイに戦後秩序を決める首脳会談を取り仕切らせてしまったのだ。

関連記事

トピックス