しかし、労働組合そのものが不要かといえば話は別だ。前出の溝上氏が続ける。
「労組はやみくもに賃金アップを要求するだけでなく、働き方の改善を促すなど“労働者の救済機関”としての役割も担っています。
例えば、KDDIのように退社してから翌日出社するまで11時間以上あけるというインターバル制度を決めたり、三越伊勢丹が正月営業をやめて従業員の休息を確保したりと、長時間労働の是正やワークライフバランスの提案を戦略的に行っている労組もあります」
特に日本企業で横行する“働きすぎ”問題は、大手労組の春闘改革の行方によっては、待遇改善の広がりが期待できるという。
「事務職・開発職・生産職など、より働く職務に着目した賃金形成を春闘で交渉していければ、他産業にも波及していくと思います。
すでに欧米では一般的な賃金交渉ですが、日本企業の場合は入社して数年おきにいろんな部署を経験する“何でも屋”の社員が多いため、職種別賃金を設定するのが難しい面がありました。
しかし、『何でもやる』ということは、裏を返せば仕事の限界がないので長時間労働を助長させる要因にもなっていました。いまは年功制を廃して役割に応じた賃金制度に改める企業も出ています。職務別の賃金水準を少しずつ確立することで仕事の範囲の明確化や、やるべき仕事の進め方も変わってくる。産業別の労組には業界を代表して、こうした新しい賃上げ交渉術も磨いてほしいところです」(溝上氏)
春闘がこのまま時代遅れの“恒例イベント”として衰退の一途をたどるのか、それとも労働組合が戦略的な交渉術を身につけて息を吹き返すのか。いまが大事なターニングポイントといえる。