しかし、労働組合そのものが不要かといえば話は別だ。前出の溝上氏が続ける。

「労組はやみくもに賃金アップを要求するだけでなく、働き方の改善を促すなど“労働者の救済機関”としての役割も担っています。

 例えば、KDDIのように退社してから翌日出社するまで11時間以上あけるというインターバル制度を決めたり、三越伊勢丹が正月営業をやめて従業員の休息を確保したりと、長時間労働の是正やワークライフバランスの提案を戦略的に行っている労組もあります」

 特に日本企業で横行する“働きすぎ”問題は、大手労組の春闘改革の行方によっては、待遇改善の広がりが期待できるという。

「事務職・開発職・生産職など、より働く職務に着目した賃金形成を春闘で交渉していければ、他産業にも波及していくと思います。

 すでに欧米では一般的な賃金交渉ですが、日本企業の場合は入社して数年おきにいろんな部署を経験する“何でも屋”の社員が多いため、職種別賃金を設定するのが難しい面がありました。

 しかし、『何でもやる』ということは、裏を返せば仕事の限界がないので長時間労働を助長させる要因にもなっていました。いまは年功制を廃して役割に応じた賃金制度に改める企業も出ています。職務別の賃金水準を少しずつ確立することで仕事の範囲の明確化や、やるべき仕事の進め方も変わってくる。産業別の労組には業界を代表して、こうした新しい賃上げ交渉術も磨いてほしいところです」(溝上氏)

 春闘がこのまま時代遅れの“恒例イベント”として衰退の一途をたどるのか、それとも労働組合が戦略的な交渉術を身につけて息を吹き返すのか。いまが大事なターニングポイントといえる。

関連記事

トピックス

伊藤沙莉は商店街でも顔を知られた人物だったという(写真/AFP=時事)
【芸歴20年で掴んだ朝ドラ主演】伊藤沙莉、不遇のバイト時代に都内商店街で見せていた“苦悩の表情”と、そこで覚えた“大人の味”
週刊ポスト
総理といえど有力な対立候補が立てば大きく票を減らしそうな状況(時事通信フォト)
【闇パーティー疑惑に説明ゼロ】岸田文雄・首相、選挙地盤は強固でも“有力対立候補が立てば大きく票を減らしそう”な状況
週刊ポスト
新アルバム発売の倖田來未 “進化した歌声”と“脱がないセクシー”で魅せる新しい自分
新アルバム発売の倖田來未 “進化した歌声”と“脱がないセクシー”で魅せる新しい自分
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
伊藤
【『虎に翼』が好発進】伊藤沙莉“父が蒸発して一家離散”からの逆転 演技レッスン未経験での“初めての現場”で遺憾なく才能を発揮
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン