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【著者に訊け】4人の歌姫に迫る『1998年の宇多田ヒカル』

2016.03.02 16:00

◆何もやらされていないからブレない

 本書では3章以降、それぞれのブレイクに至る足跡や音楽性を比較分析。街で『Automatic』がかかるたびに友達と喜び合った高校生・宇多田ヒカルの日常が奪われる様子や、かつて同じ舞台にも立った宇多田と椎名の、今もって〈ヒカルちん〉〈ユミちん〉と互いを思い合う絆。高校時代のコンテストでaikoに敗れた椎名が、実はデビュー当初から〈職業作曲家〉志向を口にしていたことなど、各々が違いを認めながらも固く結ばれていたことが分かる。

「たぶん彼女たちは相手の才能を僕ら凡人にはわからない次元で感知していて、互いの才能への信頼とテリトリー意識があると思う。特にこの3人は全員が個人事務所を設立し、何もやらされていないから、ブレないんです」

 一方、エイベックス社が巨額の資金を投じた浜崎の場合、事情は少々異なる。氏は第6章「浜崎あゆみは負けない」で〈日本のマイケル・ジャクソンとしての〉その苦悩を綴り、自身初のベストアルバム『A BEST』の発売日を、大人の事情で宇多田のセカンドアルバムの発売日にぶつけられた浜崎が、15年後に宇多田の『Movin'on without you』をカバーして借りを返した意味に思いを馳せるのだ。

「発売日の2001年3月28日は日本で最もCDが売れた日で、初週に宇多田さんが300万枚、浜崎さんが287万枚と、物凄い次元で競い合った。ただ、今の音楽が低調なのは自分たちが流行を作れると勘違いした業界の責任で、現にエイベックスが浜崎さんで稼いだ金で売り出したgirl next doorもICONIQも結果は惨憺たるものだった。幾らタイアップをとろうと売れないものは売れない。ネット時代の大衆は良くも悪くも、事情通ですから」

 視聴環境がネット配信や動画サイトに移り、コンテンツへの対価意識が薄れていることにも原因はあろう。

「でも、ここまで音楽シーンが更新されないのは日本だけ。全米で最も売れているリアーナがサムスンと契約して客ではなく企業から金をとるシステムを確立したように、優れたアーティストほど経営感覚も併せ持つ今、イイ音楽さえ作ればいいという正義は、もはや通用しません。

 この春、宇多田さんは朝ドラという超ド真ん中のタイアップで復帰しますが、アルバムは別として、シングルのCDはもう出さないかもしれない。もしそうなったら、握手券でお茶を濁してきた日本の音楽業界の〈延命装置〉が、外されることになる気がします」

 そうした事情を追認してきた音楽ジャーナリズムへの自戒もこめて本書を書いた宇野氏。それは適切な歴史認識と愛情に基づいた批評空間を取り戻す行為でもあった。

【著者プロフィール】宇野維正(うの・これまさ):1970年東京生まれ。上智大学文学部卒。映画館勤務を経て、1996年に株式会社ロッキング・オンに入社。『ロッキング・オン・ジャパン』『CUT』などの編集部を経て、株式会社FACTで『MUSICA』の創刊にたずさわる。現在は、主に音楽批評や映画批評の分野で活躍。映画サイト『リアルサウンド映画部』主筆。本書が初著書。「宇多田さんや椎名さんにはインタビュー経験もありますが、しがらみは極力排除して本音で書きました」。173cm、79kg、O型。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2016年3月11日号

◆何もやらされていないからブレない

 本書では3章以降、それぞれのブレイクに至る足跡や音楽性を比較分析。街で『Automatic』がかかるたびに友達と喜び合った高校生・宇多田ヒカルの日常が奪われる様子や、かつて同じ舞台にも立った宇多田と椎名の、今もって〈ヒカルちん〉〈ユミちん〉と互いを思い合う絆。高校時代のコンテストでaikoに敗れた椎名が、実はデビュー当初から〈職業作曲家〉志向を口にしていたことなど、各々が違いを認めながらも固く結ばれていたことが分かる。

「たぶん彼女たちは相手の才能を僕ら凡人にはわからない次元で感知していて、互いの才能への信頼とテリトリー意識があると思う。特にこの3人は全員が個人事務所を設立し、何もやらされていないから、ブレないんです」

 一方、エイベックス社が巨額の資金を投じた浜崎の場合、事情は少々異なる。氏は第6章「浜崎あゆみは負けない」で〈日本のマイケル・ジャクソンとしての〉その苦悩を綴り、自身初のベストアルバム『A BEST』の発売日を、大人の事情で宇多田のセカンドアルバムの発売日にぶつけられた浜崎が、15年後に宇多田の『Movin'on without you』をカバーして借りを返した意味に思いを馳せるのだ。

「発売日の2001年3月28日は日本で最もCDが売れた日で、初週に宇多田さんが300万枚、浜崎さんが287万枚と、物凄い次元で競い合った。ただ、今の音楽が低調なのは自分たちが流行を作れると勘違いした業界の責任で、現にエイベックスが浜崎さんで稼いだ金で売り出したgirl next doorもICONIQも結果は惨憺たるものだった。幾らタイアップをとろうと売れないものは売れない。ネット時代の大衆は良くも悪くも、事情通ですから」

 視聴環境がネット配信や動画サイトに移り、コンテンツへの対価意識が薄れていることにも原因はあろう。

「でも、ここまで音楽シーンが更新されないのは日本だけ。全米で最も売れているリアーナがサムスンと契約して客ではなく企業から金をとるシステムを確立したように、優れたアーティストほど経営感覚も併せ持つ今、イイ音楽さえ作ればいいという正義は、もはや通用しません。

 この春、宇多田さんは朝ドラという超ド真ん中のタイアップで復帰しますが、アルバムは別として、シングルのCDはもう出さないかもしれない。もしそうなったら、握手券でお茶を濁してきた日本の音楽業界の〈延命装置〉が、外されることになる気がします」

 そうした事情を追認してきた音楽ジャーナリズムへの自戒もこめて本書を書いた宇野氏。それは適切な歴史認識と愛情に基づいた批評空間を取り戻す行為でもあった。

【著者プロフィール】宇野維正(うの・これまさ):1970年東京生まれ。上智大学文学部卒。映画館勤務を経て、1996年に株式会社ロッキング・オンに入社。『ロッキング・オン・ジャパン』『CUT』などの編集部を経て、株式会社FACTで『MUSICA』の創刊にたずさわる。現在は、主に音楽批評や映画批評の分野で活躍。映画サイト『リアルサウンド映画部』主筆。本書が初著書。「宇多田さんや椎名さんにはインタビュー経験もありますが、しがらみは極力排除して本音で書きました」。173cm、79kg、O型。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2016年3月11日号

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