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オランダの「住人全員が認知症の村」へ行ってきた

◆入居費用は月額約62万円

 3月1日、日本の最高裁で注目の判決が下された。2007年に、愛知県で認知症男性(91、当時)が徘徊中に列車にはねられた事故で、鉄道会社が列車遅延などで受けた損害について、男性の妻と長男に賠償を求めていた裁判の判決である。

 最高裁は家族に賠償責任はないと判断したが、その一方で判決文では「家族が責任を問われる場合もある」とした。日本の認知症患者は予備群も合わせて800万人と推計されている。患者が事故を起こすリスクを、家族だけが背負う社会でいいのか。事故を防ぐために患者を閉じ込めることは許されるのか。様々なことを考えさせられる裁判だった。

 そうした問いへの答えのヒントが、ホグウェイにあるのかもしれない。ホグウェイでは認知症の高齢者が違和感なく“日常生活”を送れるように、カフェやレストラン、スーパーマーケット、美容院、映画館なども併設されている。

 元日経新聞編集委員で福祉ジャーナリストの浅川澄一氏は3年前から複数回、現地を取材している。

「敷地内は緑も豊かで、ゆったりとした時間が過ごせる空間です。スーパーも日用品をきちんと取りそろえています。介護施設であることを思わせるのは、ワインが置いてある棚の隣に、スウェーデン製の高級おむつ『TENA』のパックが積まれていたりするところくらいです。

 ただ、普通に見えるスーパーの店員も美容師も皆、施設スタッフです。買い物は、事前に渡されているカードで決済します。利用額の上限が決まっているので、買いすぎて混乱することはありません」

 財布を忘れたりするリスクも未然に防げるわけだ。認知症患者のケアで難しいとされるのは、本人が街を出歩いた時に起きるトラブルの数々だ。財布を忘れるといったこと以外にも、レジで会計を忘れて万引き犯扱いされてしまったり、車を運転して事故を起こしたり、前述の賠償訴訟のように列車事故に巻き込まれたりするケースがある。

 ただ、そうしたトラブルの中には、周囲が「この人は認知症だ」と理解していれば防げるケースも少なくない。2007年の愛知県の事故では、認知症男性は無人改札を通って電車に乗り、一駅先で下車してホームの端のフェンス扉を開けて線路に降りている。男性の衣服には家族が連絡先を書いた名札を縫い付けていたが、家を出てから事故に巻き込まれるまで、誰も気付かなかった。

 ホグウェイのように、「周囲が全員スタッフ」という環境では、そうしたトラブルは起きにくい。

 ちなみに入居費用は月額5000ユーロ(約62万円)だという。

※週刊ポスト2016年3月18日号

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