アドラー心理学のカウンセリングでは、相談者が変わるか変わらないかは相談者本人の課題であり、それを踏まえてカウンセラーは協力する。
「あくまでも相談者が自分の課題に取り組めるよう、援助をするのです。今までとは違う問題解決法を共に考え、試してみる。いくつかの方法を試していけば多くの場合、恐れていたことは起きないと気付きます」(岸見氏)
アドラー心理学を医療現場で実践しているのが、糖質制限の権威で、『心を変えれば健康になれる! アドラー心理学で病気もよくなる』(東洋経済新報社)を昨年上梓した高雄病院理事長の江部康二氏だ。
「私は30代の頃までは患者がよくならないと自分の腕が未熟だと悩んでいました。しかし、糖尿病の治療に関して医師としてできることをして、糖質制限の重要性も伝える。これらは私の課題ですが、そこから先、食事や運動で自己管理できるかどうかは患者の課題なのです。
私自身は知人の紹介で『嫌われる勇気』を読んで彼の考え方にとても共感できました。アドラーは英国の諺でもある“馬を水辺に連れて行くことはできるが、馬に水を飲ませることはできない”と課題の分離を例示していますが、患者と医師、看護師の関係に置き換えれば、我が意を得たりです」
※週刊ポスト2016年3月18日号