そんな職場って、室井尚のような大学人しかないではないか。結局、衒学左翼アドルノ研究教授の椅子をふやさなければならない。それができないとなると、アドルノの要約の上手なフリーターを毎年作り出すだけである。
前述の通り、私は文系学部全廃論者である。詳しく言うと、単純な全廃論ではない。芸術系は残す。最初からミューズの女神と心中しようという若者は、それでいい。教育系の国文科なども残す。枕詞やク語法が高校生に教えられないでは困る。そして、IQ150以上の高校生は、強制的に哲学科などの人文系に入学させる。彼らには高額の奨学金を与え、卒業後の生活も保証する。そして、日本からカントやヘーゲル並みの人材を輩出させる。
もちろん、マルクスでも王陽明でもナーガールジュナでもかまわない。真の人文学復興、真のエリート教育である。
室井尚の本に何度も「リベラルアーツ」と出て来る。意味が分かっているのだろうか。これは「自由な学芸」という意味ではない。「差別的な学芸」という意味である。奴隷や二級市民には許されず「リベリ(自由民)」にのみ許された特権的学芸のことである。そんなものを人口の五割以上に学ばせて、どんな社会が出現するのだろうか。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。京都精華大学マンガ学部客員教授、日本マンガ学会理事。著書に『バカにつける薬』など。
※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号