同じくリビジョニストとされたオランダ人政治学者、カレル・V・ウォルフレンは《日本は世界を当惑させている》という一文から始まる『日本  権力構造の謎』(1990)で「日本で最大の権力は官僚である」と主張。西洋と異なる日本社会の構造を分析した。

「彼らの主張は米国の議会・政治家により、対日強硬路線の論拠とされた。当時、米国政府は輸入関税の大幅引き上げを可能にするスーパー301条などを武器に、様々な分野で“異質”な日本の市場開放を迫りました」(小林氏)

 1989年末、日経平均株価が3万8915円の史上最高値を叩き出して日本経済は絶頂期を迎えたが、1980年代に英エコノミスト誌東京支局長を務めたビル・エモットは『日はまた沈む』(1990)で日本の成長源であった「高い貯蓄率」「貿易黒字」などは、急激な高齢化社会では持続しないと予測。《日本はただ昇りつづけることはなく、やがて沈む》と警鐘を鳴らした。

 同じ1989年、日本の優位性を主張する『「NO」と言える日本』(石原慎太郎、盛田昭夫著)が米国でも話題となると、米国内の日本論にも変化が。元駐日米大使特別補佐官のジョージ・R・パッカードは『日米衝突への道』(1990)でリビジョニストを批判。日本の成功は「高い教育水準」「国民の自己犠牲精神」「理想主義的で楽観的な未来観」によるものと擁護した。

 英保守党議員のフィリップ・オッペンハイムも『日本・正々堂々の大国』(1993)で明治維新と第二次大戦後に日本が欧米に倣い、「一流の教育制度」を整備して「低い税率」「国内消費の奨励」など、経済成長優先の効果的な政策を立てたと評価。日本異質論にこうクギを刺した。

《日本の実績は、「経済的奇跡」などというよりも、大戦前にまで遡る長期の準備と、持続的経済成長の導入を主な狙いとした実用的な政策とが結合した、驚異的ではあるが当然の結果なのだ》

 1992年のバブル崩壊後は露骨な日本叩きが鳴りを潜めると同時に、欧米発の日本論自体が減少した。

「バブル経済が崩壊して日本が『失われた10年』に突入するなか、冷戦に勝利した米国はクリントン大統領による景気回復が進み、日本叩きは影を薄めました。そして日本に関する書籍や論評が減少し、いわゆる『ジャパン・パッシング』、日本無視の時代となるのです」(小林氏)

※SAPIO2016年5月号

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