その謎を解くカギは今年の決算発表にある。吉野家の今期(2016年2月期)の決算における売上高は1857億円(前期比3.2%増)だったが、営業利益は16億円(同54.1%減)と大幅な減益となった。理由としては「暖冬」が挙げられていたが、吉野家の主力商品は牛丼であり、季節商品の「牛鍋」のせいで50%以上もの減益になるとは考えにくい。
同時に発表した中期経営計画でも今後3年を「種まき期間」と明言し、決算短信でも「現在のビジネスモデルに代えて、長期的に運用できる『新しいビジネスモデル』の構築を中長期的な課題」と謳っている。食材原価の高騰を売価に反映すれば、客数が伸び悩む。だが牛丼屋である以上、おいそれと牛丼は捨てられない。だからこそ吉野家は新しい業態の開発に取り組んでいる。
「うまい、やすい、はやい」からの脱却は、吉野家だけの課題ではない。松屋もとんかつ業態の「松乃家」、「松のや」「チキン亭」のほか、鮨、ラーメン、カフェなどの業態を試しているし、”変わり牛丼”で知られるすき家も、コーヒーやからあげなど丼以外のメニューを投入している。
日本の牛丼は、大衆に合わせて価格と味を研ぎすませ続けた”完成品”だ。だからこそ国民食といえるまでに広く浸透した。だが、それゆえ業態の見直しを迫られているのはなんとも皮肉な話でもある。九州で炊き出しを行うキッチンカーの姿を報道で目にするたび、その一杯に込められた心意気に胸が熱くなる。