当時は自民党の有力者や高級官僚が関与したリクルート疑惑の捜査中だった。しかも、就任直後の宇野宗佑首相が神楽坂の芸者に、「これで愛人にならないかと、指3本立てた」と報じられていた。「男は外で働き、女は家を守る」という考えが根強かった時代、身を削って1円単位で家計をやり繰りしていた主婦たちは、スキャンダルまみれの男性政治家が強引に導入した消費税導入に「NO」を突きつけた。
前出の三浦さんがこう語る。
「土井さんは既存の男性政治家へのアンチテーゼとして、市民派のクリーンな女性を数多く出馬させました。インパクトは非常に大きく、土井さんが導入されたばかりの消費税廃止を訴えると、多くの女性がこぞって賛同しました。家計を預かる主婦の金銭感覚が、マドンナブームを招いたんです」
有権者の圧倒的な支持を受けた女性候補者は22人が当選し、6~7%台で推移していた当選者に占める女性比率は17.5%に急増した。地滑りの大勝利に土井さんは、「山は動いた」との名言を残した。
元千葉県知事の堂本暁子さん(83才)は“マドンナ”の1人だ。当時、TBSの記者としてベビー・ホテルの問題に取り組んでいた堂本さんが選挙演説のため日本各地を回ると、そこには驚く光景が眼前に広がっていたという。
「北海道から沖縄までどこに行っても人、人、人。車が動かないくらいの人の山でした。女性だけでなく、男性の聴衆も多く、みんながいかに土井党首に期待しているかを肌で知りました。とにかく勢いがすごかった」
この時、過半数割れに追い込まれた自民党は女性票を無視できなくなり、選挙後の海部俊樹内閣では、初めて2人の女性閣僚が同時に入閣した。その意味でもこのマドンナブームは大きな足跡を残したが、土井さん率いる社会党はその党勢を拡大することはできなかった。
※女性セブン2016年5月12・19日号