ライフ

若冲の作品に「デジタルで解析できない霊性を感じる」と書家

『虎図』の前に立つ山下裕二氏と木下真理子氏

「ナマの日本美術を観に行こう」と始まった大人の修学旅行シリーズ。今回は、前回に続き天才絵師・伊藤若冲の回顧展(生誕300年記念「若冲展」)。日本美術応援団長・山下裕二氏(明治学院大学教授。美術史家)を引率に、書家の木下真理子氏が、若冲が描き上げた世界観に誘う──。

山下:若冲は、水墨画でオリジナルの技法「筋目描き」を生み出しました。墨のにじみを計算して描く画法で、淡い墨を隣り合わせて描き連ねると境目に白い線が浮かび上がる。『菊花図』の菊の花びらのように、奥深く優しいグラデーションが出るのです。

木下:単色で奥行きや立体感を表わすことは書道も同じですが、より豊かで深みのある線を書くには、技術だけではなく固形墨や硯の質も関わってきます。若冲は顔料や染料、墨などへの探究心も人一倍あったのではないでしょうか。

山下:若冲も、随分研究したと思いますよ。最高級の絹や絵の具にこだわり、21世紀の現代から見てもまったく古びた感じがしません。

木下:若冲の作品は、リアルでありつつどこか観念的で、また、装飾的でありながら厳かな感じがします。

山下:若冲は、若い頃から葉の虫食いをよく描いています。初期の作品『紫陽花双鶏図』には既に、虫食った葉が登場しています。それは晩年になっても変わらず、時には傷んだ鶏の羽根も描いている。ほころびゆく自然も命のありようだという若冲の死生観であり、彼の目にそれらは美しく映ったのですね。

木下:対象を観察し、本質を吸収したうえで描いたと聞きます。

山下:凝視し続けることで、目に映る景色が「色と形を持った特別のもの」に変わるのだ、という見方をしていたのでしょう。

木下:「神は細部に宿る」という言葉もありますが、花びら1枚、鶏の羽根1枚の美しさに迫る若冲の作品を直に見ると、デジタルでは解析できない霊性を感じます。

◆山下裕二(やました・ゆうじ):1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻・小学館刊)の監修を務める。日本美術応援団長。銀座・ヴァニラ画廊で開催中の『人造乙女美術館』の監修も務めた。

◆木下真理子(きのした・まりこ):書家。雅号は秀翠(しゅうすい)。大東文化大学で高木聖雨氏に師事。中国、日本古来の伝統芸術としての書を探求。映画『利休にたずねよ』やNHK『にっぽんプレミアム』に関わる題字なども手掛けている。木下真理子公式サイトhttp://kinoshitamariko.com/blog/

【生誕300年記念「若冲展」】
伊藤若冲の初期から晩年までの代表作89点を展示。若冲が京都・相国寺に寄進した『釈迦三尊像』3幅と『動植綵絵』30幅が東京で一堂に会すのは初めて。東京・上野の東京都美術館で5月24日まで開催。

撮影■太田真三 構成■渡部美也

※週刊ポスト2016年5月27日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
イエローキャブの筆頭格として活躍したかとうれいこ
【生放送中に寝たことも】かとうれいこが語るイエローキャブ時代 忙しすぎて「移動の車で寝ていた」
NEWSポストセブン
伊藤沙莉は商店街でも顔を知られた人物だったという(写真/AFP=時事)
【芸歴20年で掴んだ朝ドラ主演】伊藤沙莉、不遇のバイト時代に都内商店街で見せていた“苦悩の表情”と、そこで覚えた“大人の味”
週刊ポスト
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
伊藤
【『虎に翼』が好発進】伊藤沙莉“父が蒸発して一家離散”からの逆転 演技レッスン未経験での“初めての現場”で遺憾なく才能を発揮
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン