大橋さんのモットーは“人が大事、人に親切”。昭和35年から24年間にわたり『暮しの手帖』に勤務していた元編集部員の小榑雅章さん(78才)は、大橋さんとの思い出を振り返る。

「入社したときに鎭子さんから、“盆も正月もありません。親の死に目にも会えないというのを覚悟してください”と釘を刺されていましたが、私の母が急病で倒れた時、鎭子さんは“早く帰りなさい”と大学病院の先生を紹介してくれたばかりか、ハイヤーを出してくれて病院に付き添ってくれました」

 そこにあるのは、社長と社員を超えた家族のような関係だった。だからこそ、編集部員は親しみをこめて社長である大橋さんを「鎭子さん」と呼んだ。

 昭和47年から8年間勤めた元編集部員の唐澤平吉さん(67才)も言う。

「社長という感じはあまりしないかたで、私には“東京のお母さんだと思ってね”と言ってくださいました。休日出勤していると、鎭子さんが賀茂なすを切って揚げびたしを作ってくれたこともありました。しょうがをすりおろして“これ食べてみなさい”って。初めての味でした」

 そして、大橋さんにとっての“家族”は社員だけではなかった。小榑さんが言う。

「鎭子さんも花森さんも“日本中が家族”だと思っていたんです。当時は戦争で何もかも破壊されて、日本中が貧しくて着るものもなくて誰もがお腹をすかせている時代でした。『暮しの手帖』は、庶民の家族に寄り添いたい、日本中の家族を家族だと思って企画編集してきました」

 戦後、近代化と工業化が進み、夫は仕事、妻は家事を担う“分業体制”になった。そんななか、女性の暮らしを支えたのが大橋さんであり、『暮しの手帖』だった。
 
※女性セブン2016年6月2日号

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