「認知症800万人時代」といわれて久しい。いまや中高年世代の大きな関心事となった認知症だが、その病と付き合いながら自宅で一人暮らしを謳歌して約10年、「不便であっても不幸ではなかった」と断言する人物がいる。『認知症の私からあなたへ 20のメッセージ』の著者・佐藤雅彦さんだ。
51歳の時にアルツハイマー型認知症と診断された佐藤さんはその後10年間、一人暮らしを続けてきた。62歳を迎えた現在は埼玉県のケアハウスに移り住んでいるが、そこでも食事サービスなど最低限の日常生活の補助を受けているだけ。
しかし、認知症になった当初、佐藤さんは外出でも苦労した。複雑な道順を覚えられないし、電車やバスに乗っても、どこで降りるかを忘れてしまう。部屋にいて気が付いたら家を出るべき時刻になっていてパニックに──なんてこともあったという。
【降りる駅に着く直前に、アラームが鳴る】
佐藤さんが対策として有効活用するのが、携帯電話のメモ機能だ。電車やバスで移動する場合、前日までに目的地への経路と乗車・下車時刻をネットの乗換案内サイトで確認。携帯電話を開き、
〈新宿から急行 ○○で降りる。8時23分、バス乗る。10時××で降りる〉
といった具合にメモし、「電車を降りなきゃいけない直前の時間にアラームが鳴るようにセットしておく」というのである。
佐藤さんを支援している認知症介護・研究東京センターの永田久美子・研究部長が解説する。
「30分間乗って降りればいいという『普通の時間感覚』が認知症になると上手く働かなくなる。電車内で常に“降り損ねていないか”とハラハラし通しだと、かなり消耗してしまうんです。
でも、そうしたストレスを恐れて外出を控えてしまうと孤独を深め、病状の進行を早めることになってしまう。佐藤さんのように工夫し、外出をあきらめずに戸外で楽しみ続けることはとても大事なんです」