「現代モノだと年寄りの役ばかりなんだよ。まあ年齢的には当然なんだけど。でも、時代劇はウソができる。カツラをつければ五十代にも見えるからね。
中でも悪役は好きなんだよ。人をいじめる役は面白い。現代劇でもね。『はぐれ刑事純情派』で母親が子供をイジメてるのを見るとカッとなって殺すバス運転手の役をやったけど、ああいう異常な性格の役は自分でも怖いと思えて面白かった。
そういえば、この間WOWOWで『凶悪』という日本映画を観たんだけど、あの悪役は面白い。なんという奴か分からないんだけど(※リリー・フランキー)、もう簡単に人を殺すんだ。あの役者は役者じゃない感じがした。においが、役者じゃないんだ。でも、それが面白い。人を殺す時に笑うのよ。その時の仕草もそうなんだけど、役者じゃあんなとこで自分から笑ったりはしないはずなんだよ。なんだろう、この人はって思った。
ああいう役は、俺もやりたいね。普通の人が人を殺しちゃうみたいなの。いかにも悪役っぽい芝居はやりたくないんだ」
左はそのキャリアの大半を、脇役として過ごしてきた。
「脇役はでしゃばっちゃいけない。そのことは体に染みついている。舞台で一番大事なのは去り際。お客に『もうちょっと見たいな』と思わせるくらいがちょうどいいんだ。料理と同じ。腹八分がちょうどいい。あまり満足させちゃいけないんだ。その計算はいつもしている。だから長くやってこれたと思うよ」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』(文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』『市川崑と「犬神家の一族」』(ともに新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年6月17日号