ライフ

高校野球で体罰なくならぬ理由 経済学で説明可との説も

なぜ高校野球は人を惹きつけるのか

 夏の甲子園に向けて地方大会が始まろうとしているなか、一冊の興味深い本が出た。著者は慶応大学の商学部の教授だ。高校野球取材歴20年を超えるフリーライターの神田憲行氏が読んだ。

 * * *
 書名は「高校野球の経済学」(東洋経済新報社)という。著者の中島隆信教授はこれまで「大相撲の経済学」「刑務所の経済学」などの類書を書かれている。

 最初は高校野球の闇の部分を書いているのかとドキドキしながら手に取ったのだが、そういう本ではない。本書の目的を「はじめに」から抜き書きしてみると、

《本書の目的は、高校スポーツの一つに過ぎない高校野球が100年の長きに渡って続いてきた理由について、経済学的思考法を用いて体系的に説明することである。経済学的思考法の特徴は“効率性”と“合理性”の観点から論理を組み立て、世の中の現象を説明するところにある》

 私のように高校野球にどっぷりつかっている者でも一歩引いてみると、公共放送が全試合の全球を日本全国に生中継し、チケット売り場に年配者も子どもも行列を作るというのは、“異常”な光景に写る。その謎を著者の武器である「効率性」と「合理性」のモノサシ、経済学の知見から解き明かしてみようとする試みが本書なのである。

 分析の対象は多岐にわたっていて、その全てを紹介することはできないので、ここでは私が膝をポンと打ったところを紹介する。

 まずひとつが体罰の問題である。高校野球では残念ながら、体罰問題で処分される監督とコーチがほぼ毎年登場する。著者は「高校野球は教育の一環」というスローガンから、

《教育は一種の投資である。投資とは、いま消費したいのを我慢して将来時点でのより多くのリターン(見返り)を期待することだ》

《教育を投資とみなす考え方が、教育現場での苦痛に対する寛容性の原因になっていることは否定できない。(中略)学校での体罰や家庭内の虐待も、それが教育であり躾だという“正当性”を持っていたがゆえに対応が遅れた感がいなめない》

 そして注釈で、大阪大学の大竹文雄教授の「平均への回帰」という知見を紹介する。「平均への回帰」とは、良かったときは次に悪くなり、悪いときは次に良くなるという「純粋に統計的な現象」をいう。

《(大竹教授は)「失敗した時に体罰を含めて厳しく叱ったら次回に成果が出るというのは、因果関係ではなく、平均への回帰が観察されているだけ」と述べている。つまり、体罰がなくならないのは、“平均への回帰”を体罰の効果と誤解するためだという考え方である。プロ入り1年目に活躍した選手の成績が翌年に下がることを“2年目のジンクス”というが、これも“平均への回帰”と考えれば納得がいく》

 ほう! いまだに「体罰は必要悪」とか言ってるスポーツ指導者に「それ勘違いでっせ」と読ませてやりたいところである。ちなみにこの本はこのように注釈が数多く付けられていて、そこを拾い読みしていくだけでも勉強になる。

関連キーワード

トピックス

大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
「What's up? Coachella!」約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了(写真/GettyImages)
Number_iが世界最大級の野外フェス「コーチェラ」で海外初公演を実現 約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了
女性セブン
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
女性セブン
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。  きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。 きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン