魚介ダシの利いた濃厚な醤油豚骨スープが特徴で、ラーメン激戦区の環七(環状七号線)沿いで“行列のできる店”として知られる「せたが屋」。いまでは東京駅や羽田空港といった主要スポットにも出店を果たすなど、国内外で19店舗を展開しているが、そんな名店が大手牛丼チェーン「吉野家」の傘下に入ることになった。
業界内では、せたが屋の経営危機を訝る声も出たが、同社の前島司社長は自身のFacebookで、こう否定している。
〈せたが屋は創業以来15年間売り上げ昨対を割り込んだことはございません。緩やかではありますが右肩上がりで成長してまいりました。今回の資本提携は、グローバル展開や、ガバナンス強化、労務改善による従業員満足度を上げ、これからの環境の中で生き残れる強い会社にするためです〉
組織上は吉野家が、せたが屋の株式の66.5%を取得して子会社化するために、経営の主導権を握られることにはなるが、前島社長は引き続きラーメンづくりとブランド発展に専念するという。
ラーメン評論家の大崎裕史氏も、「せたが屋にとって提携効果は大きい」と話す。
「新たな出店に際して物件探しや資金面でのバッグアップが得られることはもちろん、何よりも人材難を食い止めることができます。いま、ラーメン業界に限らず、人が足りなくて出店できない繁盛店はたくさんあります。そこで、吉野家グループになれば、せたが屋単独よりも人が集まりやすいと言えるでしょう」(大崎氏)
いざ豊富な人材を配しての店舗網拡大は、国内よりもむしろ海外進出に活路を見出していく可能性が高い。
吉野家はアメリカや中国、香港、シンガポール、タイなどの東南アジアで676店舗(2016年5月時点)を展開している。一方、せたが屋はニューヨークに出店しているものの、他の有名ラーメン店に比べると海外進出に旺盛ではなかった。
「一風堂、けいすけ、凪、8番らーめんなど、海外で成功している有名店は多数ありますが、日本の味をそのまま持っていくだけでは受け入れられず、現地に合わせた味の改良が必要です。けいすけでも、最初に勝負したエビラーメンが芳しくなく、豚骨に変えたら大ヒットしたという経緯もあります。
その点、せたが屋は昼と夜で看板ラーメンを変える“二毛作”の形態を始めた先駆者ですし、店を出すたびに新しい食材を使ったラーメンを考案するなど、常に味の追求を怠らない。そういう点では、海外に出ていっても柔軟に対応できるでしょう」(前出・大崎氏)