●「笑いは押しつるものではない」と考える機会をくれた朝ドラ
コメディタッチと言えば、今のテレビ画面の中で一番滑っているのではないか、と思えるのがNHK朝ドラ『とと姉ちゃん』。
名編集者として登場した、花山伊佐次役の唐沢寿明さん。登場するやいなや、声を張り上げて怒鳴る。上から目線で説教する。激怒の大立ち回りは、思い切り刺激を盛ったつもりかも。
「基本的に台本通りにやろうと思っていない。もちろん基本の線は変えずに、プラスアルファで付け加えるんです」(「MANTNANWEB」2016年07月09日)と自信満々。コメディ的な誇張表現を狙っているのかもしれません。
でも。何だかその極端な演技に、「俺は面白いだろ」の押しつけがましさを感じてしまうのは私だけ? 自分の演技に酔っている気配さえ、感じてしまうのは私だけ?
役者はとことん演じる。演じれば演じるほど、見ている側が自然に、「クスっ」と笑ってしまう。ついつい、「ほろり」と泣かされてしまう。それをもって役者の力量、というのではないでしょうか。おそらく、一番やってはいけないのは、「押しつけ」。ここで笑ってください、驚いてください、泣いてください、という演技の押しつけでは?
花山伊佐次は、戦後の時代の流れに抗い批評的な精神を貫いた花森安治がモデル。スカートを履いたりおかっぱにしたりとユニークな人物だったゆえに、朝ドラで「一歩間違うとドタバタギャグになりかねない」と危惧されていた役柄でもあります。どうかこれ以上、滑らないことを祈ります。