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大田区の町工場の景色の中で無二の幸福感を味わえる角打ち

暗くなると店灯りが建物全体を浮かび上がらせる

 東京・蒲田駅に近い西糀谷(にしこうじや)は、マンションや集合住宅が立ち並び、町工場が点在する典型的な大田区の景色の中にある町だ。ときどきはせわしく、おおむねゆっくりといつもの時間が流れるそんな町で、四葉のクローバーを見つけたような幸福感を味わえる角打ちの店に出会った。『渡商店』である。

 すぐ近くを、“酒呑み”だったら、思わず笑みがこぼれてしまうようなネーミングの新呑川(しんのみかわ)が流れるその店は、関東大震災にも太平洋戦争の戦火にも耐えてきた築120年という文化財級の家構えで佇んでいる。

 朝9時から角打ちできるのだが、最高の時間帯は、夏の真っ赤な夕陽が沈み、あたりが暗くなりかける頃だ。店灯りが、幽玄の世界のように建物全体を浮かび上がらせ、角打ちムードを一層盛り上げるのだ。

「明治生まれの親父から、お前で16代目だといつも聞かされていました。酒屋専業になったのは大正時代からのようですが、元々は萬屋(よろずや)で、短い期間で代替わりした人も多かったんでしょう。詳しい資料はないのだけれど、徳川さんの時代から続いている店だというのは間違いないところです」と、主人の渡義克さん(73歳)。

 店主夫妻との語らい、そして安く酒が飲めることにひかれ、40年近く通い続けているという60代男性は、この日も夕方5時過ぎから来店。

「何造りとか何張りとかいうのはよく知らないよ。でも、床や天井のスゴい古さからは迫ってくるものがあるよね。趣きのあるこんな店で、たくさんの酒に囲まれながら、自分の好きな酒を飲む。酔い心地が全然違うんだよね。飲ん兵衛の戯言と言わずに、この幸福感をわかってほしいね」(製造業)。

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