上方落語家・笑福亭鶴光の強みは68歳を迎えてもなおトライアル&エラーを怖れないことだ。鶴光は、若い頃、先輩にこう言われたという。
「10日間のうち7日間は、今日の客はどんなネタをやったらええかっつうのを当てないかん。でも3割は滑ってもええ。10割狙うたら、得意なネタだけをやることになる。これはあかん」
この言葉を肝に銘じたのだ。
「失敗すれば、なんで滑ったかを自分で考えるでしょ。そしたら、また進歩しまんねん。失敗を怖がって、得意なネタだけしてもしゃあない。逆に、マクラを語りながら、お客さんの顔を見て、今日はこのネタやな、と挑んで当たった日はやっぱり嬉しい。英雄になるか、晒し者になるかというお客さんとの真剣勝負が楽しいんです。
寄席には、笑福亭鶴光を好きな人も、嫌いな人も、知らん人も来る。これを全部自分の力でグッとこちらへ引き込んで、ポーンと笑わすのは難しい。でも、それがでけんとプロやないでしょう。やっている最中、せっかく乗ってきたのに堂々と席を立たれてがっくりすることもある(笑い)。池袋、新宿、浅草の寄席ではそれぞれお客さんの雰囲気も違う。ファンが来てくれる独演会もいいけど、一番鍛えられるのは寄席ですよ」
この覚悟もまた、落語家鶴光を永らえさせてきた要因なのだろう。