かつて80年代の比企理恵さんや、90年代の富田靖子さんも似たような「女の敵」キャラでヒロインを輝かせていましたが、3人の共通点は、上品なルックスと話し方。表の顔が清楚なタイプだからこそ、裏の顔として「女の敵」を演じられる二面性が生まれ、ギャップを感じさせられるのでしょう。
ただ、昨年『その男、意識高い系』(NHK BSプレミアム)で連ドラ初主演し、直後の『婚活刑事』(日本テレビ系、読売テレビ)でも主演を務めましたが、どちらの役も「いい人」キャラでした。実は出演作の半分以上がこのような「いい人」キャラであり、「女の敵」キャラが際立って見えるのは、他の女優よりも“企み”を感じさせる表現力の幅があるからです。
このところの伊藤さんは、コメディ作の『婚活刑事』で自虐ヒロイン、ヒューマン作の『わたしを離さないで』(TBS系)で純粋すぎて心の病を患う教師を演じるなど変幻自在。スタッフサイドから「難役の担い手として狙い撃ちされている」ことが分かります。
伊藤さんは多くのCMに起用されているようにさわやかなイメージがありますが、過去の作品で丸坊主やヌードになったこともある役者魂の持ち主。視聴者から「女の敵」として憎々しく思われているのは伊藤さんが生き生きと演じている証拠であり、そのまっすぐな性格を踏まえても、難役を狙い撃ちされる現状を楽しんでいるような気がします。
余談ですが、伊藤さんの「生き生きとした姿」で思い起こされるのは、2001年にガールズバンド『Mean Machine』のメンバーとして活動していたこと。音楽経験がほとんどないにも関わらず、CHARAさんとYUKIさんをコーラスに従えてノリノリでヴォーカルを務めていました。2010年と2012年にもサンボマスターにゲストヴォーカルとして参加していましたし、「どんな場所のどんな役も自分の中に取り込んでハジけられる」思い切りの良さが最大の強みなのかもしれません。
最後に1つふれておきたいのは、これまで伊藤さんにはほとんどスキャンダルがなかったこと。恋愛やダーティーなイメージがなかったからこそ、制作サイドは「女の敵」キャラをオファーしやすく、本人も構えずに演じられるのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。