そうした矛盾が露呈したのが、昨年夏、安倍自公政権が安保法制を成立させたときのことだった。実際このとき、国会前のデモに「平和の党の看板を汚すな」と叫ぶ学会員らが参加。婦人部の面々も足を運び、創価学会のシンボル「三色旗」がはためく事態となった。
最近でも一部の創価学会員らによる「憲法と平和を考える勉強会」といった集まりが各地で開催されている。今春開かれた会合では、参加した婦人部の女性が「安倍さんの考えていることは怖い。反戦平和や護憲という池田先生のお考えを大切にすべきと思います」と熱弁をふるっているのを私は聞いた。
今年7月の参院選は、全国の創価学会員の不満がどれほど蓄積しているのかを計測する、一つのパラメータだった。しかし公明党は全国から比例票を757万票獲得。前回参院選(2013年)のときの756万票とほぼ変わらない数字で、また議席数も増やした。
ただここにいたるまでの“引き締め”は熾烈だった。昨年からの安保法制騒動の中で、創価学会・公明党はその機関紙誌で「安保法制は戦争法にあらず」といった論陣を徹底展開。そこには元防衛大臣・森本敏氏ら外部の著名論客らも多数招かれて、「安保法制は日本の国益に資する」とのメッセージを発していた。
こうした「内部向けの宣伝戦」に勝利した上で、公明党は参院選にも勝ったのである。事実、ある婦人部メンバーは選挙前、「何で安保法制が危険なの? 公明新聞で偉い先生が評価してたよ」とあっけらかんと語っていた。
ただ創価学会は婦人部を楽に統御しているわけではない。公明党広報部に、「自公連立政権の方針に反対する」学会員への対応を尋ねると、「多くの皆様から党の判断にご理解が得られるよう、丁寧に説明していきたいと思います」と回答。創価学会広報室も「公明党への理解不足から反対されているのであれば、残念です。当会の三色旗などが政治的に利用されるのは大変に遺憾です」と述べる。
その手綱の締め方を一つ間違えたとき、自公政権の現状、池田大作氏の長期不在といった不安材料は、創価学会・公明党に深刻な亀裂をもたらしかねないのだ。
※SAPIO2016年9月号