八月十六日付朝日新聞の外報欄には「シリア 増える女性兵」という記事が載っている。内戦下のシリアでは、ここ数年で千人もの女性が政権軍に志願し、戦闘行為に加わっている、という。女性の社会進出が遅れているイスラム圏にも新しい波が生じつつある。
以前、ある大学で講師を勤めたことがある。その大学は旧女子大で現在も女子学生が九割ほどを占める。講義は自ずと女性啓発の傾向が強くなる。
私は学生たちに問うた。女性の社会進出が強く叫ばれた時代は、いつだったと思う?
ぱらぱらと手が挙がる。一人が言う。新憲法が施行された直後ですか。私は首を横に振る。別の一人が言う。一九七〇年前後のウーマンリブの頃ですか。また私は首を横に振る。さらに一人が、ピンと来た顔で言う。戦時中ですね。
その通りだ。女だからといって家庭に閉じこもっていてはいけないと強く叫ばれたのは戦時中なのだ。戦争こそが女の社会進出を促進したし、これからもそうなのだ。だって、兵器の改良を考えてごらん。槍や刀を扱うには体力が必要だ。しかし銃の発明によって、大砲の出現によって、戦争は女にも容易にできるようになった。ましてボタンを押すだけで……。
女子学生はリボンをつけた頭で困ったようにうなずいた。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。
※週刊ポスト2016年9月9日号