【書評】『コンビニ人間』/村田沙耶香/文藝春秋/1404円
【評者】伊藤和弘(フリーライター)
発売から2週間で30万部! 今年上半期の芥川賞を受賞した本書の売れ行きは、過去10年の同受賞作の中では『火花』(又吉直樹著)に次ぐ勢いだそうです。作者の村田沙耶香さんは三島賞も受賞した中堅作家。にもかかわらず、本書のヒロインと同じく、現在もコンビニエンスストアでアルバイトをしていることも話題を呼びました。では早速、ストーリーを見てみましょう。
古倉恵子は36才の独身女性。今まで恋愛経験はなく、きちんと就職したこともなく、学生時代から18年間、同じコンビニでアルバイトを続けています。一見快活でテキパキと仕事をこなしていますが、それはコンビニのマニュアルや周囲の店員をマネしているだけ。彼女はかなり早くから、自分が“普通”ではないことを自覚していました。
たとえば幼稚園の頃、公園で小鳥が死んでいたことがあります。他の子供たちが泣いている中、恵子は「これを焼いて食べよう」と言ってドン引きされました。恵子の言動や行動はそれなりに合理的なのですが、なかなか周囲に理解されません。そのため必要最低限のことしかしゃべらないように気をつけ、親しい友達もつくらずに成長していきました。
大学1年生のとき、スマイルマート日色駅前店がオープン。一人暮らしを始めたばかりだった恵子は、オープニングスタッフとしてアルバイトを始めます。教えられたマニュアル通り、明るくはきはきと対応する姿を見て、社員は「すごいね、完璧!」とほめてくれました。
〈そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った〉
それから18年。店長が8代目になった今も、恵子は同じ店舗でアルバイトを続けています。食事はコンビニの商品がメイン。夢の中でもコンビニで働く彼女は、コンビニにいるときだけ“普通”になれる気がするのでした。