◆あの手この手で楽しませる構造
それにしてもお吟が柔肌を晒し、どこからか風車が飛んでくるだけでニヤリとしてしまうほど、水戸黄門が自分の一部と化していることに改めて驚かされる。
「たぶんドラマを観ていない人でも懐かしさを覚えるくらい、あの勧善懲悪劇は日本人のDNAに刷り込まれていると思うんです。
私はそうした娯楽が失われつつある現状を何とかしたくて、自分が親しんできた大衆文学や冒険小説の本流を後世につなげる覚悟で小説を書いています。水戸黄門に代表される明朗時代劇も読んでさえもらえればみんなが楽しめるはずだし、今の日本に必要なのは笑いではないかと思うので」
第1話のモチーフが作家を脱稿するまで閉じ込める〈缶詰〉なら、2話は〈パクリ〉で3話は〈スランプ〉。そして最終話では執筆者の〈恋わずらい〉が思いもよらない結末を招き、編集者の苦労は今と昔を問わない。
その上で〈かの『史記』の編修者が司馬遷を夏陽県の缶都館なる旅館に閉じ込めた〉、はたまた〈パクリとは、明代に著された古典『三国志演義』の作者の一人とも言われる箔李が、執筆に行き詰まった挙句、他人の作を盗用した故事に由来〉などと、月村氏はいかにもありそうなウソを織り交ぜ、一行の行く先々で事実そっちのけの世直し譚が喧伝されたりする落差にも、笑いやおかしみを見出す。