◆車のリモコンキー型カメラで隠し撮り
22時18分:食事を終え、店から出てきたふたりは、どちらからともなく手を繋ぐ。このカップルもご多分に漏れず“ふたりだけの世界”に入ってしまったようだ。A氏の宿泊先のホテル方面へと歩いていく。このまま帰るのかと思いきや、A氏はタクシーを拾った。
22時22分:ふたりが乗ったタクシーの様子がおかしい。突然停車すると、A氏だけがいったん下車し、周囲を見渡す。
「たまに途中で急に冷静になって警戒する男性もいます。これを“警戒行動”といいます。ここで調査しているのがバレると、しばらくの間、調査ができなくなってしまうので、深追いは禁物です。今回は男性の宿泊先はわかっていますから、いったん尾行を中止して、ホテルで帰りを待ちましょう」(同前)
23時45分:A氏の宿泊先のホテルにタクシーで戻ってきたふたり。一度、フロントに寄り、何かコンシェルジュと話し込んでから、エレベーターへ。するとベテラン調査員は大胆にも同じエレベーターに平然と乗り込んだ。
ホテルに戻ってきてからの様子は、すべて撮影され、記録されている。
「以前は“証拠写真”が必要でしたが、最近は動画で現場を押さえるのが主流です。これは裁判所が証拠として動画や動画をキャプチャした静止画を証拠として採用するようになったから。
今回は車のリモコンキーに擬装したムービーカメラで撮影しています。これはかなり接近しても気が付かれません」(同前)
23時55分:調査員の目の前で、カードキーをかざして部屋に入る女性。続いてA氏も部屋へと消えた。
「これでは不倫調査としては不十分です。不貞を裏付けるため、短時間で女性が部屋から出てないことを確認しなければならない。『部屋で打ち合わせしていただけ』と強弁する男性もいますから。ドアの下から漏れる照明が消えたら就寝したと認められるので、それまで出入りがないことを確かめます」(同前)
隣室が空室であれば、その部屋にチェックインする場合もある。隣が無理でも、同じフロアの部屋に入れれば、ドアを少し開け鏡を置いて出入りを確かめることもあるという。
「実はホテルの壁やドアは薄いので、耳を近づけると男女が睦む声が聞こえることもある。聞こえても録音はしませんが、調査書に記載します」(若手調査員)
1時28分:部屋が消灯したのを確認した調査チームは、いったん現場を離れた。
ベテラン調査員は疲れた表情を浮かべながらも、こういう。
「明日も調査は続けます。まだ女性の素性がわかっていませんから。明日はA氏ではなく、彼女の尾行です」