──実は、トップリーダーランキングでは、1位のアメリカに次いでインドが2位、中国が3位です。
隈:それ、現場でも非常に実感しますね。それに対して日本では、高度成長時代までは田中角栄さんのような人がいましたが、バブル崩壊以降はバブルへの反省が行き過ぎて萎縮し、破天荒なリーダーが出なくなってしまった。
──もうひとつ、日本人が劣っているのがプレゼン能力で、本書のランキングでは15位です。
隈:日本の教育では図面や答案用紙が最終的な成果物になりますが、アメリカではそれらを使った発表やディスカッションが重視されるんですね。つまり、プレゼン能力が問われる。
僕の事務所では世界中から応募者があるんですが、以前、作品集と面接で採用を決めていたら、プレゼンの上手いアメリカ人が有利で、説明の下手な日本人が不利だったんです。でも、そうやって採用したアメリカ人が必ずしも役立たなかった(笑)。
なので今は、図面と模型の作製能力をより重視した採用方法に変えているんですが。ただ、僕自身の経験から言っても、プレゼン能力は場数を踏めば身につきますし、教育によって養うことが可能だと思います。
──本書は、国全体の才能の総量を意味する「グロスナショナルタレント」という概念を提唱しています。
隈:これからの社会は資源や資本ではなく才能が引っ張る、という考え方に同意します。そういう時代における日本の課題は「混ぜる」ことです。日本人だけで仕事をするのではなく、そこに外国人を「混ぜる」。それにより日本人の不得意な分野が補われ、さらに外国人の刺激を受けて日本人の潜在能力が引き出される。日本人と中国人が一緒に仕事をすれば、非常に面白いことになると思いますよ。
【PROFILE】くま・けんご/1954年神奈川県生まれ。建築家。東京大学大学院工学部建築学科修了。木材など自然素材を生かした建築が特徴。主な設計作品に歌舞伎座、根津美術館、サントリー美術館など。『建築家、走る』(新潮文庫)など著書多数。
※SAPIO2016年10月号