「引き出しはないですね。ただ、人間観察が好きやから、まずは人間を見ることというか。日常って、いろんなケースに出くわすじゃないですか。でも、その面白さをどう伝えようかと思うような微妙なニュアンスのエピソードがあるわけです。そういう時に、これは難しい思うてやめてしまうことはあんまりないんですよ。
回りくどく状況を説明しないと伝わらんことでも、あきらめんと伝えるんですよ。普通なら、そんなもどかしいことはしないですよ。でも、伝えにくい笑いを逃げないでやることが物凄く大事なんです。普通なら、こんな邪魔くさい笑いなんてせんでええ、もっとわかりやすいネタやったらええって話やねんけど。
ただ、そういういちいち説明のいるような笑いって映画にはあるんですよ。フリートークなら邪魔くさいと思うようなことを、映画の一つのカットとして撮ったら……と考えたらおもろいなと思えてくる。それが芝居に役立つわけです。だから、そういう笑いも大事にしています。
そうやって蓄積したものは映画で使いますし、もちろんトーク番組でも使います。だから今となってはトーク番組をやることが芝居に役立つのか、芝居をやることがトークに役立つのかわからへん。両方かもしれませんね」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年9月30日号