格闘技から茶道へ。カナダ出身のランディー・チャネル 宗榮(そうえい)さんの経歴はユニークだ。道を求めて1985年に来日した当初の目的は、日本古来の武道を極めることだった。
剣道、弓道、居合道、薙刀、二刀流を学ぶ中、文武両道の精神を実現するために何か「文」となるものを始めたいと思った。そこで、自宅隣の裏千家の茶道教室に通い始めたのが茶道との出会いだった。次第にその奥深さに引き込まれ、1993年、京都の裏千家学園茶道専門学校に入学。卒業後は指導者の道に入り、茶名「宗榮」を受ける。現在は裏千家教授の資格を持ち、指導歴は今年で20年。
「茶道は素晴らしい総合芸術です。建築、庭園、和菓子、懐石、陶芸、漆芸、竹工芸、華道、書道など様々な分野が融合され、お茶でつながっていることが大きな魅力です。茶の湯は日本の伝統文化のマスターキーといえます」
ランディーさんのお点前は、動きに一切の無駄がなく、とにかく美しい。
「武道をやっていたからだと思います。茶道と武道はまったく違うように見えますが、私の中では同じ道です。所作や物を持つ時の姿勢など、共通することも多い。礼に始まり、礼に終わるのも一緒です。武道から学んだ残心と無心の精神も、茶道で生きています」
茶道教室で教える傍ら、茶の湯の楽しさをより多くの人に広めたいと、2007年に京都市内の町家を改装してカフェ「らん 布袋」をオープン。気軽に茶道体験もできる「興味の種を蒔く場所」を設けた。イスに座って行なう立礼式の普及にも努める。
「茶道で一番大切なのは一期一会の心。出会った人においしいお茶を差し上げたいという気持ち、そのお茶を受ける側は感謝の気持ちでいただく。その心を持っている人は皆、茶人なのです」
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年10月7日号