そうこうするうち、父が結腸がんで手術することになってしまった。手術後の父は完全に寝たきりになりましたが、病院は入院し続けることを許してくれませんでした。もはや自宅介護も限界ということで、結局、父は介護保険適用の介護老人保健施設に入所しました。
妻は毎日通って献身的に介護していましたが、父はトラブルを起こしてばかり。他の入居者の迷惑にならぬよう、個室に入れざるを得ませんでした。個室に入ると、施設の費用は月額30万円ほど。父の預金が底をつくと私がすべて払いました。
父は施設に入所して2年ほどで亡くなりました。84歳でした。迷惑をかけっぱなしだった父が、最後に「ありがとう」と妻に感謝していたことが、強く印象に残っています。妻には本当に頭が上がりません。
いまになって振り返ると、要介護4(※注)の状態の人間を自宅で介護するのは、そもそも不可能だった気がします。
【※注/5段階の要介護レベルのうち、重いほうから2番目。歩行や入浴、排泄、衣服の脱ぎ着といった作業に全介助が必要で、理解の低下がみられることがある】
将来、自分が要介護3くらいになったら、誰が何といおうと、施設に入る以外手はないと思っています。身内に介護が必要な人間が1人出ただけで、どれほど生活が変わるかを痛感したので、家族に迷惑をかけないよう、お金だけは貯めておきたいと思っています。
●もりなが・たくろう/東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本専売公社入社。経済企画庁、UFJ総合研究所主席研究員などを経て、2006年から獨協大学経済学部教授。テレビのコメンテーターとしても活躍中。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号