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西郷輝彦 母を看取り「人間、生きているうちが華」

人間、生きているうちが華

 自分の「最期」について考えるとき、最も身近な“お手本”となるのは、両親が亡くなった時のことではないだろうか。厳しかった父、優しかった母はどうやって人生を締めくくったのか──。俳優の西郷輝彦(69)が、「母の死」に際して見たこと、学んだことを明かす。

 * * *
 腎臓が悪く、長いこと入退院を繰り返していた父をずっと看病していた母が、父より先に亡くなるとは思っていませんでした。

 僕が歌手デビューした後、地元・鹿児島から東京に父と母と姉を呼び寄せました。最終的に両親は神奈川県で2人暮らしを始めて、病気の父を母がずっと看病していたのです。母が突然体調を崩したのは、父の看病疲れだったと思います。

 父の具合が悪くなってから、母は僕の舞台公演にあまり来られなくなってしまった。母が82歳で亡くなる数年前、僕は東京の明治座で舞台『江戸を斬る』に出演しましたが、母が「観に行きたい」と訴えても、父が「俺を1人にするのか」「もし俺に何かあったらどうするんだ」と頑なに拒んで、観劇は叶いませんでした。母に最後の舞台を見せられなかったことが僕の一番の心残りです。

 母はいつも何かあると、「お父さんに聞かないと」というほど、父に“絶対服従”の間柄でしたね。

 そんなこともあり、病床の母との最後の会話は、「私はこの人(父)にすべてを捧げた」「これから楽しい余生を送ろうと思っていたのに、病気になってしまった」という愚痴ばかりでした。

 病院では姉が母に付き添いましたが、そろそろ最期という時に僕の仕事がオフになりました。2002年12月14日のことです。

 母はもう会話できる状態ではなかったけど、先生から「お別れをされた方がいいですよ」と諭されて、僕は腕の中で母をずっと抱いていました。母の意識がふっと薄れても、「お母さん! お母さん!」と声をかけると、すっと息を吹き返す。そしてまた意識が遠くなる……その繰り返しでした。

 そして母は最後、僕の腕の中で息を引き取りました。死の瞬間、一緒にいることができて本当によかった。

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