日本は4人に1人が65才以上という超高齢社会であり、在宅の身体障害者数は約350万人(2008年調査)という“要介護”大国である。しかもその数字は年々伸びている。約10年後には在宅介護が本格化すると推測される昨今、「ストレスのない移動」は重要課題であり、自動車メーカー各社も福祉車両の開発・改良に取り組んでいる。
「家族は誰ひとり置いてきぼりにしない」。福祉車両が紡いだある家族の絆を取材した。
関哲雄さん(38才)と靖子さん(38才)夫妻の長女、歌子ちゃんが「脊髄性筋萎縮症」と診断されたのは、生後2か月の時。全身の筋力低下や筋萎縮が進む数万人に1人の難病で、今も有効な治療法は見つかっていない。呼吸筋が侵されるため、乳幼児が発症すると70~80%は1才までに死亡するといわれる病気だ。
「人工呼吸器をつけないと1才半までは生きられない」と主治医に宣告されての入院。しかし、「子供は家族と暮らすのがいちばんいい」との勧めもあって、1才の誕生日を待たずに退院、夫婦交代で歌子ちゃんを在宅介護する日々が始まった。
「その頃はまだ普通のセダンに乗っていたので、通院などの移動時にはストレッチャーを荷室に積み、歌子は後部座席でチャイルドシートに乗せて、目的地に着いたらストレッチャーを用意して…の繰り返し。でも、しばらく走ると歌子の体がずれてきて危険だし、しかも当時住んでいたのが階段しかないアパートの3階だったので、移動はかなりの重労働でした」(関さん)
そこで、ストレッチャーごと乗せられるクルマを探し、トヨタの福祉車両「ウェルキャブ」シリーズから、ストレッチャーに横たわったまま車に乗せられる「ライトエース」のリフト車に乗り換えた。ちょうど年子である長男が誕生したこともあって、「姉弟一緒に出かけさせてやりたい」という思いもあった。
「万が一の事態を考えて慎重に行動する必要はありますが、やはり子供は子供たちと一緒に外に出て、いろんなものを見て、刺激を受けないとダメじゃないかと。だから家族4人で一緒に移動できるクルマが必要不可欠でした」(関さん)
◆とにかく外へ、人々の中へ。あえて普通校を選んだ理由
歌子ちゃんが3才になるとストレッチャーに乗せ、市内の心身障害施設に通わせた。5才からは地元の保育園への交流保育にも参加できるようになった。ストレッチャーごと移送できれば体調が急変しても、歌子ちゃんの体に負担を強いることなくすぐに病院へ連れて行ける。人工呼吸器を装着する歌子ちゃんの外出には、時にはジロリと見られて傷つくこともあったが、積極的に「ライトエース」を走らせた。