天皇は261週間にわたってタヌキの糞の調査を行ない、164個の糞を採取。その結果、58の分類群の種子が見つかり、タヌキが食べた昆虫の死骸などから偶然採取されたと思われるものを除いた〈35種の分類群が皇居のタヌキの主な植物質の食源を示している〉ことを明らかにした。これも専門家からすると「凄い研究成果」なのだという。
「糞から検出された種子が種または属まで識別され、その数が58に及んでいる。これは一か所の溜糞場での結果として破格の値です。さらに感心させられたのは、『同定不能』として、名前がわからない種の数も挙げていること。ここに陛下の研究者としての厳しさと、誠実なお人柄が反映されているように思えました」(高槻氏)
論文では5年間にわたってタヌキの食性に大きな変化はなかったと結論づけているが、それこそが重要なのだという。
「タヌキの食性は調査した年、あるいは場所によっても大きく異なる。その柔軟性が特性です。食性が5年間安定していたというのは、皇居の森林に安定した食物供給力があることを示しています。また、単に食べ物を解明しただけでなく、タヌキの生き方を皇居の森林の特徴と結びつけた点に大きな意味があります」(同前)
2003年1月に前立腺がんの手術、2012年2月に心臓のバイパス手術を受けた天皇は、体調不安を抱えながらも、東日本大震災の被災地訪問(2011年)や、パラオ(2015年)などへの慰霊の旅を続けてきた。
そうした天皇としての公務と並行して、研究者としての探究心と好奇心を究めるバイタリティには畏れ入るばかりである。
※週刊ポスト2016年11月4日号