新馬戦は出走馬すべてが初めてのレース。後にダービー馬になるかもしれない馬と、未勝利のままで終わる馬が一緒に走ることもあるので、素質だけで勝ってしまうこともある。また抑えが利かない馬がいて極端な展開になることも多いのですが、どんな展開になるにしても、道中しっかりとタメを作り、終いが切れる作り方を心がけてはいます。
暮れの大きなレースへの思いを温めているものの、この時期は新馬戦の勝ち方にはそれほどこだわらないし、新馬戦で勝てなくても、2戦目3戦目と成長してくれればいい。2歳時に2勝というのが理想ですが、1つ勝っていれば、まずは合格です。
闇雲に勝ちに行くということもない。体に力がない馬は強く調教すると走りがよれてくるし、叩いた次の調教から急に引っかかり出したりすることもある。「調教は厳しい、競馬は苦しい」という悪いイメージばかりが残ってしまう馬もいるのです。叩かないで勝つことは、「余力を残す」というよりも「可能性を広げる」。そんなメリットがあります。
その意味でも、新馬戦のジョッキーは重要です。鞍上の指示に従わせ、馬に余計なストレスを残さず、きちんと競馬を教えてくれるジョッキーがいい。斤量は軽いほうがいいに決まっていますが、技量のほうがはるかに大事です。
ヴァナヘイムは精神的にも安定していて、体力面も問題なし。それでいて無理な調教もしていません。新馬戦では浜中騎手の柔らかい手綱が奏効しました。相手が強くなってどんなレースを見せてくれるか楽しみです。
今年の角居厩舎は2歳馬が多彩です。他の2歳馬も、ゲート試験を受け、放牧に出し、という具合に調教を繰り返しています。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位(2016年10月16日終了時点)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、サンビスタなど。
※週刊ポスト2016年11月4日号