撮影は埼玉県入間市にある巨大倉庫内にセットをつくって行なわれたのだが、街や店もまた、美術監督の原田満生によって、これでもかというくらい細部までリアルにつくり上げられた。小林は半ば呆れながらこう言う。
「やるんだったら、こうしたいと暴走して、予算とか関係なくセットをつくっちゃうんだもん(笑い)。スタジオを使うお金はないから、空いている倉庫を安く借りて。でも、完成したら、面白いね、このセットとなるわけです。金もないのによくそんなことをやったな、というスタッフの努力の積み重ね、熱量で、奇跡的に『深夜食堂』はここまでつながってきたんですよ」
そして、こう諧謔的に言うのだ。
「でもね、スタッフは一流だけど、役者はあんまり一流じゃないんですよ(笑い)。僕をはじめ地味でアングラな役者ばかり。でも、それがいいみたいです。あの路地裏の店に馴染んでいるという意味で。あまりにもスターで1本のギャラが高そうな役者は、『深夜食堂』では違和感があるんです」
事実、劇団出身の不破万作や綾田俊樹、安藤玉恵など、個性的な常連客を演じるレギュラーメンバーからはアングラ感が滲み出る。小林はこんなエピソードを披露する。
「最初の映画のときに新宿東映で完成披露試写会をやったんです。オダギリジョー君が忙しくて来られなかったんだけど、ひな壇にレギュラー陣が並んだ。そしたら、松岡錠司監督が『これだけアングラ役者ばかり揃うのは珍しいな』って(笑い)。僕も含めて華のある役者がいないから、記者も何を質問していいかわからなかったくらい。でも逆に、このメンバーで勝負しているなんて、凄いなと思いましたけどね」
●こばやし・かおる/1951年生まれ。京都府出身。1971~1980年、唐十郎主宰の劇団「状況劇場」に在籍し、1970年代後半から映画やドラマに多数出演。2007年の映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で第31回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。『深夜食堂』では、TVシリーズ版、劇場版と主演を務め、最新作『続・深夜食堂』が11月5日より全国一斉公開。
■取材・文/一志治夫
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※週刊ポスト2016年11月11日号