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2016.11.24 07:00  SAPIO

政府・日銀の円安誘導 亡国理論以外の何物でもない

通貨高で倒産した国はない

 アベノミクスで一時(2015年6月)は1ドル=125円台まで円安が進んだが、今は110円前後まで戻し、マスメディアを中心に円高を警戒する声が喧しい。だが、自国通貨の価値が下がるのを歓迎するのはおかしくないか? 投資銀行家のぐっちーさんこと山口正洋氏が解説する。

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 通貨の価値が下がった国の国民は、悲惨な生活を強いられる。1980年代に私はモスクワに駐在したことがある。その当時の公式為替レートは1ルーブル=400円だった。だが、現実には円を出せば1ルーブル=10円のレートで物を買えた。当時のソ連の人々を見て、まさに国を叩き売っている、自国通貨安はここまで国民を痛めつけるのかと実感させられた。

 今もロシアのルーブルの価値は低い。強大な軍事力、ロケットを打ち上げる科学力、豊富な天然資源と、教科書通りの通貨高の条件では日本よりはるかにいい。だが、世界からロシアは付加価値を生む能力がないと見られていることが、通貨安を招いている。

 だから、円高は日本人として誇りに思うべき事態なのだ。だが、大半の日本人は円安を望んでいるようだ。

 戦後、それまでの「円」は紙くず同然となったが、直後に米国主導のGHQ占領下で最強のドルに裏打ちされた新「円」が発行された。そのため、日本は決定的に円が暴落した経験をしておらず、通貨安に鈍感だということもある。だが、何よりメディアが垂れ流す「円高悪玉説」に踊らされているからだろう。歴史を振り返っても、通貨安で倒産した国はあるが、通貨高で倒産した国はない。

 円が最強の通貨のひとつであることは疑いようがないが、現在、アベノミクスならぬ「アベノリスク」によってそこに影が差し始めている。図に掲げた実質民間最終消費支出の推移を見ていただきたい。戦後、消費支出が大きな下降線を描いた時は2度しかない。その2度とは、リーマン・ショックとアベノミクスだ。

 円安誘導で消費者物価は上がり続けた一方、実質賃金は下がり続けたのだから、消費支出が減るのは当然だ。円安で日本経済が回復するなら結構だが、今後も円安による輸入物価の上昇だけが起きれば、われわれの生活は苦境に陥るだろう。

 戦後、1ドル=360円の時代から価値が3倍になった円が、日本国民にもたらした豊かさは計り知れない。それなのに、政府・日銀が円安に誘導するなど、まさに亡国理論以外の何物でもない。最強の円こそが日本を豊かにするのだ。

【PROFILE】1960年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。大手総合商社や欧米の金融機関を経て、ブティック型投資銀行を開設。「ぐっちーさん」のペンネームで経済金融評論家としても活躍中。『ぐっちーさんの 政府も日銀も知らない経済復活の条件』(朝日新聞出版刊)ほか著書多数。

※SAPIO2016年12月号

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